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献本書評
休蔵さん
休蔵
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本作は台湾に暮らすある一家三世代の物語で、台湾の現代史と絡み合いながら進む。人生について考えさせられる1冊。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 本作は台湾に暮らすある一家三世代の物語で、台湾の現代史と絡み合いながら進む。
 具体的には、二二八事件(1947年)、美麗島事件(1979年)、美濃の反ダム建設運動(1992年~)、葉永鋕少年死亡事件(2000年)、七一一水害(2001年)、高雄地下鉄工事に関わるタイ人労働者暴動事件(2005年)、高雄の第一回LGBTパレード(2010年)である。
 とは言え、正直な話どれも聞いたことがなかった事柄ばかり。
 でも、確かに台湾で起きた事件・事象という。
 
 物語は林呂春麗の夫が正気を失い帰宅したところから始まる。
 春麗は呂春麗から宮本春麗となり、小林春麗になった。
 単なる国際結婚ではなく、国際情勢の影響、つまりは日本の侵攻に伴う改名。
 新聞記者の夫は日本語でも記事を書いていたが、台湾の情勢変化によりその立場はいかようにも変わる。
 結果、正気を失い帰宅となったのだが、そこには夫の死後に判明する一家の暗部が隠されていた。
 
 2人には2人の男の子が生まれた。
 平和と起義だ。
 物心ついた時にはすでに正気を失っていた父を持つ2人は、そのために形成された微妙な家庭バランスのなかで成長する。
 平和はやがて弁護士となり、年老いた両親を抱えながら長く独身生活を送る。
 他方、起義は早々に家を出て叔母とともに暮らし、独自の価値観を形成していく。
 社会の正義を追求する運動家として。
 起義の正義は、息子の哲浩との関係性を歪めていく。
 そして、法律により正義を貫く平和と運動を通して正義を探求する起義のもとに、死んだ父親が残した暗部が重くのしかかることに…。

 理解と対立、そして和解・・・誰の生活にも当たり前に訪れること。
 台湾にいま生きる人たちは、台湾史の積み重ねの上に生活する。
 それは台湾に限らず、日本でも韓国でも中国でも米国でも英国でも同じこと。
 現代史のなかに起きた事件は様々で、それぞれの事件に対しての人の関わり方もさまざま。
 もちろん、現代史だけが影響するわけではなく、近世史も中世史も何らかの関わりを持つはず。

 人生は日々の積み重ね。
 そして、一族は個々人の人生の積み重ねか。
 令和に生まれた子どもの親は平成か昭和生まれで、それぞれの情勢が並走し、人生に大きく影響を及ぼす。
 そして、大正、明治、慶応…と古くからの伝統も多かれ少なかれ引き継いでいる。

 新型コロナウイルスの感染が拡大しているいま、私たちは歴史の大きな転換点にいるのかもしれない。
 私たちは「新しい生活様式」を余儀なくされた。
 平成の常識は通用しませんという雰囲気が拡散するなか、それでは経済が回らないと政策は大きく転換することに。
 感染を拡大させないよう注意しながら経済を回すための行動活性化は、大きな混乱を引き起こし、場合によっては考え方の相違による分断も生みかねないことに。
 歴史の評価は、後世下される。
 しかし、その時にはすでに転換された情勢に暮らしている。
 そこには新たな物語が紡がれているはず。
 私たちの日々は、大きく世界情勢と関わりながら進んでいる。
 そんなことを強く意識した1冊だった。
 
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:451 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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