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ときのき
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美徳のよろめき/origin
 美貌のシャルトル嬢は宮廷デビューを果たし、そこで出会った有力貴族のクレーヴ公に求婚される。誰に対しても恋愛感情をいだいたことのないシャルトル嬢は求められるままに結婚するが、彼女の前に宮廷でも評判の美男のヌムール公が現れ、〈クレーヴの奥方〉である彼女に接近を始めたことから生まれて初めて心が揺れ……

 光文社古典新訳文庫版で300ページ。シャルトル嬢と、彼女をとりまく人々の心の揺れ動きが洞察力に富んだ、繊細な筆致で描き出される、フランス心理小説の古典だ。
 17世紀の小説であるためか登場人物が突然長い独白を始めて前後の状況説明を行ったり、全知の語り手により一つの事件の全容がそれに関わった人々の心理の表裏とともに余すことなく語られたり、本筋とは必ずしも関係のない恋愛がらみのエピソードが延々と告白されたりする。訳者解説によれば当時の演劇を中心とした文学で尊重されていた《時間の統一》《場所の統一》《アクションの統一》の三統一の影響が本作にもみられるという。つまり四百年近く前の作品であるから当然だが、使われている技法は古く、現代作家のそれほどに整理されてはいないようだ。
 
 ではつまらないか、といえばそうではない。
 クレーヴの奥方とヌムール公の駆け引き、宮廷の人々の複雑な心の動き、物語当時の歴史的背景を踏まえた宮廷人士の策動、といったことどもがこの懇切丁寧でひらべったい叙述によって時代の異なる読者にとってすら容易に理解可能なものとして提示されている。当時のモラルの枠内で物語は決着するが、結末はあまり重要ではないような気がするくらい、個々のエピソードや心理描写が面白い。前述した技法の古さが、寧ろ現代小説にはない独特の魅力として輝いて見えてくる。

 個人的には、妻のある告白を聴くまで事態の蚊帳の外にいたクレーヴ公視点のスピンオフストーリーが読みたい。どこかでラファイエット夫人の遺稿でも見つからないだろうか。
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ときのき
ときのき さん本が好き!1級(書評数:137 件)

海外文学・ミステリーなどが好きです。書評は小説が主になるはずです。

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