ゆうちゃんさん
レビュアー:
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立場の弱い人は声なき声を上げている。それを聴ける人、聞けない人、聞こうともしない人、どの人たちが正しいか、正しくないのか、そんなことを問題にせず、弱い人の立場に寄り添った小説。
本屋大賞を受賞した本で、このサイトにもたくさんの書評が出ている。
題名の52ヘルツのクジラとは、クジラが一般に10~39ヘルツで歌うのに対して52ヘルツの声で歌うクジラはその声を仲間に聞いてもらえないというところから来ている。主人公は三島貴瑚(きこ、キナコの愛称がある)。彼女も52ヘルツで歌うクジラに例えられる人だった。雨の中、貴瑚に気づいた少年もそうだった。その他に最低でもあとひとり52ヘルツで歌うクジラに例えられる人がこの小説には登場する。
貴瑚は母親に半ば虐待されて家を出た。家を出るに当たりたくさんの人に助けてもらった。しかし、そこからひと悶着あり、これまでの生活を捨てて祖母の住んでいた大分県の田舎に引っ越してきた。大分県に引っ越して間もない頃が本書の冒頭。話が進むにつれて、貴瑚の過去も、また雨の中、貴瑚に気づいた少年のことも、そしてもうひとりの52ヘルツの歌い手のこともだんだんわかってくる。
この本の粗筋は、他の書評者たちが紹介しており、今更自分が書くものでもない、と思いこの程度で終わらせておきたい。最初の52ヘルツの歌い手は、貴瑚と貴瑚と大分で知り合った少年だけかと思っていた。彼女らの声は、耳を澄ましていてもなかなか気づけない。この本はこうした52ヘルツの歌い手の置かれた立場を如実に示したものだろう。毒親、恋人間のDV、そして性少数派。本書の登場人物の名前はちょっと変わっているがその辺も著者の仕掛けに思える。
52ヘルツで歌うクジラの声はなかなか聴けないものだ。しかし、貴瑚や少年の周囲には何とかそういう声なき声を聞けた/聞こうとした人がいる。しかし、そういう声を聞こうともしない人もこの小説にはたくさん登場する。著者もそれらの人を決して悪者扱いせず、その人の経験や性向に根差した生き方になってしまっている、と言う描写で小説をより良いものにしている。最後の場面では貴瑚が少年との出会いを回想する。このような52ヘルツのクジラ同士の邂逅はまさに奇跡だった。長い期間でも3回しか、貴瑚の住む家の近くのその湾を訪れなかったというクジラの咆哮がその感動を一層、深いものにしてくれる。
こうした本を読むと、自分が52ヘルツで歌うクジラの声をどれだけ聞けているのか、省みられずにはいられない。彼らの声は、聞こうとする単なるポーズだけでは聞けない。貴瑚の親友の美晴のように、ポーズではなく本当に聞く耳を持たないと聞けないのだろう。自分に果たしてそれが出来るのだろうか。
題名の52ヘルツのクジラとは、クジラが一般に10~39ヘルツで歌うのに対して52ヘルツの声で歌うクジラはその声を仲間に聞いてもらえないというところから来ている。主人公は三島貴瑚(きこ、キナコの愛称がある)。彼女も52ヘルツで歌うクジラに例えられる人だった。雨の中、貴瑚に気づいた少年もそうだった。その他に最低でもあとひとり52ヘルツで歌うクジラに例えられる人がこの小説には登場する。
貴瑚は母親に半ば虐待されて家を出た。家を出るに当たりたくさんの人に助けてもらった。しかし、そこからひと悶着あり、これまでの生活を捨てて祖母の住んでいた大分県の田舎に引っ越してきた。大分県に引っ越して間もない頃が本書の冒頭。話が進むにつれて、貴瑚の過去も、また雨の中、貴瑚に気づいた少年のことも、そしてもうひとりの52ヘルツの歌い手のこともだんだんわかってくる。
この本の粗筋は、他の書評者たちが紹介しており、今更自分が書くものでもない、と思いこの程度で終わらせておきたい。最初の52ヘルツの歌い手は、貴瑚と貴瑚と大分で知り合った少年だけかと思っていた。彼女らの声は、耳を澄ましていてもなかなか気づけない。この本はこうした52ヘルツの歌い手の置かれた立場を如実に示したものだろう。毒親、恋人間のDV、そして性少数派。本書の登場人物の名前はちょっと変わっているがその辺も著者の仕掛けに思える。
52ヘルツで歌うクジラの声はなかなか聴けないものだ。しかし、貴瑚や少年の周囲には何とかそういう声なき声を聞けた/聞こうとした人がいる。しかし、そういう声を聞こうともしない人もこの小説にはたくさん登場する。著者もそれらの人を決して悪者扱いせず、その人の経験や性向に根差した生き方になってしまっている、と言う描写で小説をより良いものにしている。最後の場面では貴瑚が少年との出会いを回想する。このような52ヘルツのクジラ同士の邂逅はまさに奇跡だった。長い期間でも3回しか、貴瑚の住む家の近くのその湾を訪れなかったというクジラの咆哮がその感動を一層、深いものにしてくれる。
こうした本を読むと、自分が52ヘルツで歌うクジラの声をどれだけ聞けているのか、省みられずにはいられない。彼らの声は、聞こうとする単なるポーズだけでは聞けない。貴瑚の親友の美晴のように、ポーズではなく本当に聞く耳を持たないと聞けないのだろう。自分に果たしてそれが出来るのだろうか。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:中央公論新社
- ページ数:0
- ISBN:9784120052989
- 発売日:2020年04月18日
- 価格:1760円
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