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いけぴん
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藤原氏全盛の時代、なぜ源氏が藤原氏に圧倒的な勝利する物語が生まれたのか?
中世以前の日本において文学と政治はきわめて密接に結びついていた。だから、当時の政治状況や歴史の流れがわからないと本当の意味で『源氏物語』というものを理解することはできない。との立場から『源氏物語』という作品がなぜ出来上がったのかを探る。

『源氏物語』は、天皇の皇子として生まれた若者が、臣籍降下させられて源氏を名乗るも、ライバルの右大臣、左大臣(どちらも藤原氏)を圧倒して、自分の息子を帝位につけるという形で圧勝する物語である。しかし、作者紫式部は当時の権力者藤原道長に擁護され、娘の彰子中宮に仕える女房である。源氏が藤原氏を圧倒する物語がなぜ許されていたのか。

筆者は怨霊信仰というものが日本の歴史を解明するキーと位置付けている。怨霊とは、この世に尽きせぬ恨みを残して死んだ人間の霊のこと。日本は古来この霊の祟りを極端に恐れていた社会である。だから戦いに敗れたものを決して粗末には扱わない。大国主命を慰めるため出雲大社を作って大和政権が手厚く保護し、菅原道真の霊を鎮めるために天神さまとして崇めてきた。

『源氏物語』が執筆された背景にもこの怨霊信仰があると筆者は言う。実際に、宇多天皇から冷泉天皇の時代における、藤原氏と源氏の激しい政権争いが繰り広げられ、結果として源氏は敗北し、藤原氏の天下となっている。『源氏物語』で登場する冷泉天皇は光源氏の息子であり、現実世界で冷泉天皇の御代で源氏の栄光が失われたのとは対照的に描かれている。『源氏物語』とは、現実の世界では政治的敗北者となった源氏一族の霊魂を慰め、怨霊化しないように物語の中で鎮魂しているのではないか。

また、本書ではもう一つ興味深い話題に触れている。源氏物語多数作者説である。紫式部ひとりであの長篇小説を書いていたのか。筆者は様々な根拠をあげ多数作者説に迫っている。

・物語の中で引用されている文献数が800と膨大で、一人で読み込み、物語に活かすことは不可能
・1400種類の語彙が用いられていて、これだけの言葉を使いこなすのは個人では不可能
・様々な文体が入り混じった物語であり、統一された書き癖というものがない。
・506人もの登場人物を描き分けている。しかも一度だけ登場し、使い捨てられている人物が半分以上存在しており極めて異常。

様々な理由をあげているが、その理由の冒頭に「現代作家の感覚でみれば・・・」という言葉を添えてよく吟味してみる必要があると感じる。また、多数作者説は巷で囁かれているミステリーであるが、ここに触れることの意味合いは良く考えなければならない。

筆者の上から目線の物言いがいちいち癇に障る書であったが、『源氏物語』を違う視点で捉えられたということでは充実した読書体験であった。
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いけぴん
いけぴん さん本が好き!1級(書評数:1211 件)

山口での単身赴任を終え大阪に戻りました。これからは通勤時間を使っての読書が中心になります。

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この書評へのコメント

  1. 千世2020-10-23 20:51

    いけぴん様。こんばんは。千世です。
    すごく面白いです。
    でも、「筆者の上から目線の物言いがいちいち癇に障る」というのが気になります。私もそういうの好きではないのですが、それがなければ★5つ、ぐらいの感じでしょうか。

  2. いけぴん2020-10-23 20:57

    千世さん、コメントありがとうございます。
    「国文学者が指摘できなかったことを初めて見つけたぜ」、「読者の皆さん、このくらいはご存じですよね?」的な物言いが・・・(*_*)
    もう少し言い方はあるのにと個人的に思ました。
    内容は面白いです。

  3. 千世2020-10-24 07:13

    ありがとうございます。やっぱりどうしても気になりますね。(-_-;)

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