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ときのき
レビュアー:
闇の奥の、秘密の町へと
 社会福祉課の職員として妻子とともに亜熱帯の町サンクリストバルに赴任した語り手の“私”。町では、正体不明の子供たちが集団で出没していた。どこからともなく現れ、理解のできない言語を話す彼らへの対処に戸惑う町民たち。だが、ついに町のスーパーへの襲撃事件が発生したことで、子供たちを追及する声が高まる。大がかりな捜索が行われるなか、32人の子供たちは奇妙な状況下で命を失うことになる。

 スペインの現代作家による長編だ。1994年に起きた事件の渦中にいた“私”が、二十二年後の時点から当時を回想する、という形で語られる。
 大人たちの理解からはずれた子供たちを伝聞と憶測により描いた点で、スティーヴン・ミルハウザーの短編「夜の姉妹団」を思い出した。だが、アメリカの田舎町の住人らと自分の娘たちとのコミュニケーションの不通を描いた「夜の姉妹団」と違い、本書に登場する子供たちは語り手と異なる “肌の色の浅黒い、縮れっ毛”であり、文化的な差異はより大きく、何より語り手自身もまたこの町においてはひとりの異邦人だ。彼は一人称複数形の陰に隠れた事件の報告者ではなく、子供たちのもたらした状況に役所の責任者の一人として振り回され、自ら動くことで事のなりゆきに影響を与えていく。
 
 終盤、意図を読解しきれない謎で飾られた「秘密の町」へと子供たちは逃れていく。羨望するもの、恐れるもの、彼らの排除を、包摂を訴えるもの。サンクリストバルの住人は混乱と、やがて悲嘆に陥るが、事態の推移は克明に描かれても、子供たちに何が起きていたのか真相が解明されることはない。生き延びた少年も、語り手たちが理解できる言葉では断片的な事情しか語ることができない。
 
 事件について「何十もの書籍やドキュメンタリーや美術作品」が製作され、わずかな事実と、罪悪感や無理解からくる多くのごまかしが含まれたカッコつきの“真実”が流通し、人々に傷痕を残しながら、それでも時間は流れていく。二十二年の間に、語り手は多くの変化を経験し、大切なものを失っていく。回想は、彼が心に据えた聞き手である“証人”の少年へのメッセージであるのかもしれないが、それすらもやがては薄れ、消えていくのだ。
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ときのき
ときのき さん本が好き!1級(書評数:137 件)

海外文学・ミステリーなどが好きです。書評は小説が主になるはずです。

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