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ぽんきち
レビュアー:
精神鑑定を題材にしたエンタメ系医療ミステリ
現役医師でもある著者による医療ミステリ。
精神鑑定医、影山司(かげやま つかさ)と、新米医師、弓削凛(ゆげ りん)のコンビが事件に取り組む連作集である。

タイトルの「十字架」は、罪を負うべきものは誰かというテーマを孕む。
事件に絡む精神鑑定とは、要は罪を犯したものにその責任があるかを問うものである。
刑法39条にはこうある。
一、心神喪失者の行為は、罰しない。二、心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する
つまり、精神を病んでしまった者の犯罪行為を、司法は罰しない。しかし、犯罪行為自体が実際に行われ、犯罪の被害者が厳として存在するならば、その罪の「十字架」は誰が負うべきなのか。

見習い鑑定医の凛には、心の傷がある。
高校生の頃、同級生の少女が惨殺された。しかし、犯人は精神を病んでおり、断罪されなかった。
凛は事件のあった日、彼女に遊びに誘われたものの、受験勉強を理由に断っていた。あの日、もし自分が彼女と一緒にいたら、彼女は死なずに済んだのではないか。
心にその重石を抱えながら、親友の事件の闇に迫ろうと、凛は精神鑑定医を目指していた。

上司の影山は精神鑑定の第一人者である。冷静で物静かであり、滅多に感情を表に表わさない。精神鑑定は、日本では学問的な業績としてはほとんど認められず、金銭的な見返りも少なく、「割に合わない」仕事だという。それでも鑑定を学びたいという凛の強い意志に押され、影山は凛を助手に使うことにする。

短編が4つ、最後に中編で締める。
第一話「闇を覗く」。無差別通り魔事件。犯人は簡易鑑定で重度の統合失調症と診断され、本鑑定のために影山の元に送られてきた。だが彼の行動に不審な点があることに影山が気づく。
第二話「母の罪」。生後五ヶ月の娘を抱き、マンションから飛び降りた母。産後うつかと思われた母はしかし、「悪魔が娘を殺せと脅した」と言う。
第三話「傷の証言」。引きこもりの青年が姉を刺したとして捕まった。青年が統合失調症を患っているのは明らかに見えたが、事件にはいささか腑に落ちない点があった。
第四話「時の浸蝕」。別れ話がもつれて元交際相手を刺殺した男。傷害致死で起訴された犯人は、支離滅裂なことを言っていたが、簡易鑑定を行った影山は「罪を逃れるための詐病」と証言した。事件は裁判に持ち込まれたが、ことは意外な展開に。
第五話「闇の貌」。同僚を刺殺した女。過去にも殺人事件を起こしていたが、解離性同一性障害の診断を受け、不起訴となっていた。実はこれが凛の過去にも関わる事件だった。

全般にストレートに精神疾患と事件を扱うというよりは、展開にひねりがある。
最初に診断された疾患が詐病であったとか、事件の背後に精神疾患に対する偏見があったとか、二転三転があって、よくプロットが練られている。
医学の知識もちりばめられていて、なるほどと参考になる点もあるのだが、どちらかといえば、良くも悪くもエンタメ寄りだろう。専門的なことはよくわからないのだが、ちょっと気になったのは最終話。凛の心の傷にも関わる中編で、おそらく著者も力を入れた作品なのだと思う。が、解離性同一性障害、いわゆる多重人格というのは、その人の心の中にいくつもの異なる人格が存在するものだと思うのだが、本作だと死んだ人の人格が犯人に宿る形になっている。そんなことありうるのかな・・・? 実際にそういう症例があるのかどうか知らないが、これを読んだだけでは何だかいきなり死者が憑りついたようで、医療ミステリというよりホラーのように感じる。
ただ全般にリーダビリティは高い。影山や凛の人物造形もおもしろく、テレビドラマなど、映像化にも向いていそうな印象を受ける。お気に入りの俳優さんや女優さんで脳内キャスティングしながら読むのも楽しいかもしれない。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1825 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。現在、中雛、多分♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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