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第二次大戦中、収容所に向かう列車からユダヤ人が赤ん坊を一縷の望みを託して外に投げたという実話をベースにした『エリカ 奇跡のいのち』という絵本がありますが、本書はそれが稀ではなかったことを教えてくれます。
「ただ一つ存在に値するもの―実際の生活でも物語のなかでも、ほんとうにあってほしいもの、それは愛だ。愛、子どもたちにそそがれる愛。自分の子にも、他人の子にも。たとえどんなことがあっても、どんなことがなくても、その愛があればこそ、人間は生きていける」(本書より)
このサイトで本書のことを知りました。先行する書評を書いてくださった方々(Rokoさん、武藤吐夢さん、まーぷるさん)に感謝します。
1939年パリ生まれの本書の作者ジャン=クロード・グランベールについては、どうも聞いたことのある名前だと思っていましたが、ググってみたら、トリュフォー監督『終電車』(1980年)のシナリオに参画していたのですね。それ以上に驚いたのは、フランス演劇界最高の賞といわれるモリエール賞を6度も受けていることと、児童文学も含め数多くの戯曲や小説を発表していることです。日本では、彼の戯曲を上演したことはあるようですが、本として出版されたことは本書が初めてのようで、本国でこれだけ有名な演劇人としては不思議なことです。
仏語版 Wikipedia によると、ルーマニア系のユダヤ人であった作者は、1942年に眼前で父と祖父が連れ去られ、そのまま収容所から帰らぬ人となる経験をしたそうです。作者がホロコーストを題材にすることはよくあるそうですが、本書も、そういう体験や、生後28日でガス室に送られた双子の赤ん坊、1歳の誕生日にガス室に送られた女の子などの実話を組み合わせて、書かれたものです。
2019年刊の本書の物語は、収容所に送られる途中に、乗っていた貨物列車から一縷の望みを託して、親が外に投げ出したユダヤ人の赤ん坊を中心に展開されています。この状況は、アメリカ人作家ルース・バンダー・ジーが、ドイツのローテンブルグ市に立ち寄った際に会ったエリカという女性から聞いた話をベースに、イタリア人イラストレータのロベルト・インノチェントが絵を描いた『エリカ 奇跡のいのち』(2003年)と同じです。「お母さまは、じぶんは『死』にむかいながら、わたしを『生』にむかってなげたのです」と、生き延びたヒロインは、その本の中で語っているのですが、投げられて死んでしまった赤ん坊もいるでしょうし、捨てられた子猫のように、いくら泣いても無視されて死んだ赤ん坊もいるでしょうから、数は分からないものの、当時、実際に起こったことだったのです。
作者が「昔話」と呼ぶ、本書の詳しい内容については、他の方々が書かれていますので、ここでは触れませんが、作者の語りたかったことを伝えるには、登場人物の次の言葉で十分でしょう。
「人でなしも人よ。人でなしにも、心臓がある。心がある。おまえさんやわたしと同じように」
こういう当たり前のことを、わざわざうったえなくてもよくなるのは、一体いつのことなのでしょうか。読後に、そんなことを思いました。
このサイトで本書のことを知りました。先行する書評を書いてくださった方々(Rokoさん、武藤吐夢さん、まーぷるさん)に感謝します。
1939年パリ生まれの本書の作者ジャン=クロード・グランベールについては、どうも聞いたことのある名前だと思っていましたが、ググってみたら、トリュフォー監督『終電車』(1980年)のシナリオに参画していたのですね。それ以上に驚いたのは、フランス演劇界最高の賞といわれるモリエール賞を6度も受けていることと、児童文学も含め数多くの戯曲や小説を発表していることです。日本では、彼の戯曲を上演したことはあるようですが、本として出版されたことは本書が初めてのようで、本国でこれだけ有名な演劇人としては不思議なことです。
仏語版 Wikipedia によると、ルーマニア系のユダヤ人であった作者は、1942年に眼前で父と祖父が連れ去られ、そのまま収容所から帰らぬ人となる経験をしたそうです。作者がホロコーストを題材にすることはよくあるそうですが、本書も、そういう体験や、生後28日でガス室に送られた双子の赤ん坊、1歳の誕生日にガス室に送られた女の子などの実話を組み合わせて、書かれたものです。
2019年刊の本書の物語は、収容所に送られる途中に、乗っていた貨物列車から一縷の望みを託して、親が外に投げ出したユダヤ人の赤ん坊を中心に展開されています。この状況は、アメリカ人作家ルース・バンダー・ジーが、ドイツのローテンブルグ市に立ち寄った際に会ったエリカという女性から聞いた話をベースに、イタリア人イラストレータのロベルト・インノチェントが絵を描いた『エリカ 奇跡のいのち』(2003年)と同じです。「お母さまは、じぶんは『死』にむかいながら、わたしを『生』にむかってなげたのです」と、生き延びたヒロインは、その本の中で語っているのですが、投げられて死んでしまった赤ん坊もいるでしょうし、捨てられた子猫のように、いくら泣いても無視されて死んだ赤ん坊もいるでしょうから、数は分からないものの、当時、実際に起こったことだったのです。
作者が「昔話」と呼ぶ、本書の詳しい内容については、他の方々が書かれていますので、ここでは触れませんが、作者の語りたかったことを伝えるには、登場人物の次の言葉で十分でしょう。
「人でなしも人よ。人でなしにも、心臓がある。心がある。おまえさんやわたしと同じように」
こういう当たり前のことを、わざわざうったえなくてもよくなるのは、一体いつのことなのでしょうか。読後に、そんなことを思いました。
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「本職」は、本というより映画です。
本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。
この書評へのコメント
- calmelavie2021-01-30 20:37
こんばんは。
この本は知りませんでした。
当時、このように赤ん坊を助けようとした事例は複数確認されているようですね。
ルルーシュ監督の『愛と哀しみのボレロ』にも、男の赤ちゃんが紐で括られて降ろされる場面があります。(最後に母親と再会するのですが、感動的でした。)
わが子だけはなんとか助けたいという、究極ともいうべき親の愛、その祈りに言葉を失います。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
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