darklyさん
レビュアー:
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本書は単なる探検記ではない。むしろ副題の「闇に隠された人類史」の方が本書の本質を表している。
本書の題名を見ててっきりこの本は豪胆で命知らずな冒険野郎による探検記なのだろうと勝手に決めつけて読み始めると全く見当違いであり、どちらかと言いますと地下に魅せられたオタクなジャーナリストによる人間と地下の歴史を踏まえた思索的な内容がメインでした。イメージ的にはブラタモリをもっと深く、根源的なところまで掘り下げたようなものです。
筆者の地下への執着は凄まじく洞窟探検のみならず都市の下水道、納骨堂から始まり鉱山の地下深く潜りNASAの微生物採取に同行、更に長時間の暗闇を体験するため一切の光を断った洞窟に自ら入る実験を行うなど、とにかく地下に憑かれているとしか思えません。
そして博学ぶりもかなりのものです。神話から始まり、科学技術、スピリチュアル系、医学、考古学などの話題がふんだんに盛り込まれており、地下世界という限定されたテーマでありながら人類の本質を浮き彫りにするという奥が深い内容となっています。
人間は地下の暗闇で完全に方向感覚を失った場合、視覚以外の感覚をフルに研ぎ澄ませ何とか自分の位置を知ろうとします。それは多分人間の持つ本能を呼び覚ますものであると思われます。そしてその本能の最たるものである生存本能を激しく揺さぶるものだと思われます。
人生に嫌気がさし洞窟に入り、迷って出てこれなくなったジョシュアベルジュという男が約1か月後に救出された事例では人が変わったように前向きになり、学位を取り、より良い職についたそうです。つまり暗闇の中で生存本能が目覚めた一つの例です。地下の暗闇でなくとも例えば「千と千尋の神隠し」においては若くして生きる意味を失っている千尋が奇妙な世界で必死にもがくことにより生きる意欲を取り戻していく構図は正に同じだろうと思います。
これを社会的視点に応用してみます。日本型雇用は明るく見通せる道を毎日歩いていく状態のような気がします。物思いにふけろうがスマホを見ながらだって不安もなく目的地にルーティン的に到着できます。しかし、いざそれが壊れてしまえば人々は見通せない暗闇の中で生きるために自分の持てる能力をフル稼働せざるを得なくなります。一人一人にとってはキツい状況でも全体で見れば生産性が向上するということになるでしょう。なかなか日本社会は変われませんが、そのきっかけがもしかするとコロナなのかもしれません。
本書を読み終え人類という存在に思いを馳せます。遠い将来、太陽の寿命が尽きる前に地球を捨てて宇宙に乗り出す科学技術力を身に着けたとしても人類が生き延びることができる可能性は低いのではないかと想像します。人類はあくまでも太陽の下、地上で生きることができるように進化したのであって、その環境をいくら人工的に模倣できたとしてもそこにはなにか必ず肉体的・精神的に不具合が生じるような気がするからです。想像を絶するほど精巧に環境にフィットするように我々は造られているような気がします。もっとも宇宙に出る前に自ら環境を破壊し自らの首を絞めることにならなければ良いのですが。
筆者の地下への執着は凄まじく洞窟探検のみならず都市の下水道、納骨堂から始まり鉱山の地下深く潜りNASAの微生物採取に同行、更に長時間の暗闇を体験するため一切の光を断った洞窟に自ら入る実験を行うなど、とにかく地下に憑かれているとしか思えません。
そして博学ぶりもかなりのものです。神話から始まり、科学技術、スピリチュアル系、医学、考古学などの話題がふんだんに盛り込まれており、地下世界という限定されたテーマでありながら人類の本質を浮き彫りにするという奥が深い内容となっています。
人間は地下の暗闇で完全に方向感覚を失った場合、視覚以外の感覚をフルに研ぎ澄ませ何とか自分の位置を知ろうとします。それは多分人間の持つ本能を呼び覚ますものであると思われます。そしてその本能の最たるものである生存本能を激しく揺さぶるものだと思われます。
人生に嫌気がさし洞窟に入り、迷って出てこれなくなったジョシュアベルジュという男が約1か月後に救出された事例では人が変わったように前向きになり、学位を取り、より良い職についたそうです。つまり暗闇の中で生存本能が目覚めた一つの例です。地下の暗闇でなくとも例えば「千と千尋の神隠し」においては若くして生きる意味を失っている千尋が奇妙な世界で必死にもがくことにより生きる意欲を取り戻していく構図は正に同じだろうと思います。
これを社会的視点に応用してみます。日本型雇用は明るく見通せる道を毎日歩いていく状態のような気がします。物思いにふけろうがスマホを見ながらだって不安もなく目的地にルーティン的に到着できます。しかし、いざそれが壊れてしまえば人々は見通せない暗闇の中で生きるために自分の持てる能力をフル稼働せざるを得なくなります。一人一人にとってはキツい状況でも全体で見れば生産性が向上するということになるでしょう。なかなか日本社会は変われませんが、そのきっかけがもしかするとコロナなのかもしれません。
本書を読み終え人類という存在に思いを馳せます。遠い将来、太陽の寿命が尽きる前に地球を捨てて宇宙に乗り出す科学技術力を身に着けたとしても人類が生き延びることができる可能性は低いのではないかと想像します。人類はあくまでも太陽の下、地上で生きることができるように進化したのであって、その環境をいくら人工的に模倣できたとしてもそこにはなにか必ず肉体的・精神的に不具合が生じるような気がするからです。想像を絶するほど精巧に環境にフィットするように我々は造られているような気がします。もっとも宇宙に出る前に自ら環境を破壊し自らの首を絞めることにならなければ良いのですが。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
この書評へのコメント
- noel2021-02-03 08:33
どう関係あるのか知りませんが、「人生に嫌気がさし洞窟に入り、迷って出てこれなくなったジョシュアベルジュという男が約1か月後に救出された事例では人が変わったように前向きになり、学位を取り、より良い職についたそうです。つまり暗闇の中で生存本能が目覚めた一つの例です」という言葉に感銘を受けました。
というのも、さきほど村上春樹の作品についてなにか書きたいとのコメントをdarklyさんの書評のひとつに書いたばかりなので、このことばが彼の書く「井戸のなかの暗闇」を想起させたのだと思います。彼は果たして、そうした漆黒の暗闇のなかで、何を得ようとしていたのでしょうか。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - noel2021-02-03 21:03
わたしの場合は、論理的にものごとの裏側を探るタイプではなく、いつも言うように直観的にしかものを捉えられない性格ですので、あまり当てにはなりません。けれど、これがなくては、人間、生きていても楽しくないじゃありませんか。
アーリカ! と叫ぶ瞬間、そしてその思いに浸る瞬間、ああ、生きているんだと「観じる」のです。
おっしゃるところの「人類はあくまでも太陽の下、地上で生きることができるように進化したのであって、その環境をいくら人工的に模倣できたとしてもそこにはなにか必ず肉体的・精神的に不具合が生じるような気がするからです」というのもまた、論理ではなく、darklyさんの直観から来ている閃きの発露なのだと思います。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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