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星落秋風五丈原
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この夫にしてこの妻あり!でいいのか?
 海岸でいちゃついてて目が覚めたらパスポートも金もとられてた女性テレーセ。さてこの話がどう発展していくのかと思いきや、舞台美術家のアリーナ・コーンウォールが、意味深な電話を残して失踪した夫パトリックを探す話にシフト。出したからにはどこかでこの二つは繋がるのだろうと思いながら読んでいく。わかってみれば答えは最初から読者に提示されていたのだが、ある情報を敢えて著者が出さなかったために、なかなか見つからない。

 アリーナはお腹は目立たないが妊婦である。普通なら誰か信頼できる男性主人公を一人立てるのが理想的だが、外国語があまり得意ではないにも関わらず、彼女は一人で動く。彼を思う愛情の強さ故だと好意的に解釈するが、一方で子供の事をもっと考えればいいとも思う。特にラスト近くで起こってしまうある出来事の後では特に。

 パトリックが追っていた特ダネとして浮上するのが、現在ヨーロッパで大きな問題となっている不法移民である。“不法”故に密入国のマージンの相場は天井知らずであり、作品に書かれたように先払いなので安全に目的地に着くかは不透明だ。それでも密入国したい移民の弱みに一方的につけこんだ悪人たちのやりたい放題が通用する悪質な市場である。

 こんな社会的テーマを追っていたパトリックの妻なのに、素人のアリーナが彼を探して訪ねる所訪ねる所次々と死体が出る。尾行を巻くなどプロフェッショナル視点を持っていない彼女だからこそ起きる事態であるが、危険を冒して彼女に会い、情報を提供してくれているのに、その人が頼んだことは無視するなんて、仁義にもとるのではないか。この社会的悪を追求する視点をずっと持ち続けてくれていれば良かったのに、どうしても物語が私怨に流れがちになる。必ずしも本作は好意的に受け取られなかったようだが、ヒロインの言動に不審を抱いた読者がいたからではないだろうか。
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2321 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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この書評へのコメント

  1. keena071511292023-01-14 06:36

    >本作は好意的に受け取られなかった

    “どんでん返し”が 
    物語を悪い方に向かわせるのが良くないと思うんですよね 

  2. No Image

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