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星落秋風五丈原
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「鴎外の子であることの幸福 鴎外の子であることの不幸」という帯そのままの人生
 森家には子供が5人いた。長男・於菟、長女・茉莉、次女・杏奴、次男・不律、三男・類-そのうち次男・不律は苦しむ様子を不憫に思った母が医師に頼み安楽死させた。この出来事が『高瀬舟』を生む。

 オットー、マリー、アンヌ、フリッツ、ルイと、日本にいながら日本人らしからぬ名前をつけられた子供達は、それぞれ才能を世に知られてゆく。とりわけ長女・茉莉はあの時代に二度離婚してスキャンダラスな話題を振りまくが、それでも評判になった文才が批判を封じた。

 それに比べて三男の認知度は低い。そもそも小説になるまで、三男がいたことを知らなかった人が大方ではなかろうか。軍医と文学者、二足の草鞋を履きおおせた森鴎外の息子で、母親も小説家。更に他の姉妹達が才能を発揮できるのだから、同じ両親から生まれた彼にも遺伝子は伝わっているはずだと、皆当然のように思い込む。しかし、彼が目指した文学や画業は悉くものにならなかった。

 指導者の問題か。いや、親の伝手で当代の文化人が教師に就いた。だから、教師の力量不足ではない。毎日の生活にも窮する有様だったから、才能を磨く余裕などなかったのか。これも当たらない。鴎外の印税は子供達に等分に分けられ、戦争さえなければ、何不自由ない暮らしを続けられた。杏奴と共にパリ留学もしているのだから、十分刺激的な人生を生きている。才能を発揮できる原因はいくつもありながら、結果が伴わない。それでも、一般家庭ならばその程度のことはよくある。彼は、有名人の息子でなければ、これほど苦しむことはなかった。そして戦後は、何不自由ない暮らしの感覚のまま散財したことを、妻からも咎められる。他人から批判されても、普通の感覚を持ちようがないので、家族の暴露本を素直に書くと、周囲との断絶が起こる。鴎外の子であることの幸福は、鴎外の子であることの不幸と常に背中合わせだった。どちらか一方だけを選べない彼が、それでも家族を持ち、平成まで生き抜いたことは、幸福だったと言えるのではないか。

 本書の装画は森類によるものだ。

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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2323 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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