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休蔵さん
休蔵
レビュアー:
ミッシングワーカーという問題は、けっして他人ごとではない。いつ自分が陥ってもおかしくない問題。
 就職できるか否か、それは就職活動中の時世に左右される。
 就職氷河期世代は、バブル崩壊のあおりをモロに受けた。
 政治は事の重大性に注目することなく、その世代を放置することに。
 いや、規制緩和で非正規枠を大きく書く出し、疑似就職の罠猟を解禁して、なんとなく職に就く安心感を与えてはくれた。
 しかし、日本社会の場合、新卒者向けの求人がメインで、そのタイミングを逸してしまうと、条件の良い就職先を獲得することは極端に難しくなる。

 就職氷河期世代を放置したまま令和に突入し、最近では救済措置をとる自治体もちらほら。
 ただし、その競争倍率は以上に高く、しかも40代になってから初登庁となっても・・・という心配すらある。
 事の重大さは、まだまだそんなものではないらしい。
 本書はNHK取材班による「ミッシングワーカー」の実態についてのルポ。
 令和の世情はいったいどうなってしまうのか、大きな不安感に襲われる衝撃の1冊だ。

「ミッシングワーカー」という言葉はリーマンショックにより経済的な衝撃を受けたアメリカで生まれたと言う。
 「同様の影響は日本でも起きているのか」という観点から調査は着手されたが、日本の場合、リーマンショックの影響以前からさまざまな澱が溜まっていた。

 まずはバブル崩壊後の経済の低迷で、この問題は就職氷河期へと繋がっていく。
 当初から軽く見られたこの長期に及び経済的な低迷は、後に「失われた10年」としたり顔で評価されるようになる。
 失われた10年は単なる概念では済まされず、そこに巻き込まれ、社会に出ることができなかった世代を明確に生み出していた。
 当時考えだされた救済策が非正規雇用の拡充。
 しかし、それは将来的な負債を強いるその場限りの施策に、就職氷河期世代は翻弄される。
 企業側は都合のいい人材程度にしか思わなったのだろう。
 景気が上向きになった時、企業がこの世代を積極的に採用(救済)したかというとそんなことはなく、結局新卒者を募集し採用するという始末・・・

 就職氷河期世代は、最初の核家族世代の2世でもある。
 この世代が年齢を重ねるとともに親世代も年齢を重ね介護を要するように。
 その結果が親の介護を一人で抱えるため、職を辞める人も出てきた。
 家の中だけで起きる1対1の介護問題は、外からは閉ざされ、気が付いた時には取り返しがつかないところまで追い詰められていることにもなりかねない。

 とある家庭で起きた問題を、社会はその家の問題、さらには個人の問題として片づけがち。
 就職氷河期世代に対しても、「就職できている人はいるじゃないか」と責める意見もあった。
 「努力が足りないんだ」と・・・
 事を個人の問題として片づけ、事の本質から目を背けた結果、ミッシングワーカーは100万人を超えるまでに膨れ上がった。
 ようやく、この世代の救済に行政もようやく動き出しているとのこと。
 十分カバーできるほどのものではないが、それでも放置して素知らぬ顔を決め込んでいる場合ではないと気づいたようだ。
 なにしろ、この100万人が高齢となる日が近づいているのだ。
 重い腰も上げようというもの。
 ミッシングワーカーの問題は日本社会の本質を考えさせる大きな問題である。
 単なる一事象としてぼんやり眺めるのではなく、自分に関わり兼ねない闇として真剣に向き合うべきものだと思う。
 
 
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:450 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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