書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

かもめ通信
レビュアー:
頑張ってはみたけれど、この本の面白さの4分の1も伝えきれずにもどかしい。けれども、こんな面白い本を、紹介せずにいるのもまた勿体ないので、書いてみた。
“「世界文学」とはなにか”と題される序章からはじまる本書は、およそ380ページにわたって展開される、比較文学や翻訳研究が専門の著者による学術論文集だ。

「世界文学」という呼び名でいったいなにが名指しされ、なにがどう読まれてきたのか。
日本とソヴィエト、アメリカにおける「世界文学」のありかたを、主にその地域で発行された「世界文学全集」や「世界文学アンソロジー」のような叢書やアンソロジーをとりあげて、翻訳、出版、政治、教育などの観点から分析し、その理念やあり方の歴史的意味を探っていく。

興味深いのはこうした研究にあたって著者は、(著者の言葉をそのままうけとるとすれば)本書に次々と登場する小説を「ほとんど読んでいない」ということだ。
文学作品に変わって引用され、主役となるのは全集やアンソロジーの目次だ。
そう聞くとなんだか堅苦しいイメージをもたれるかもしれないが、心配はいらない。
これがちょっと信じられないほど面白いのだ。


例えば“なぜ「イチヨー・ヒグチ」がアメリカ発の「世界文学アンソロジー」でもてはやされたのか”などと言われると、一葉の作品がアメリカで読まれていたことを知っていても知らなくても、本好きなら気になる人は多いはず。

様々な全集の目次は、私のようなリスト好きにはたまらないお宝でもある。
編者の思惑を想像しながら目次をみると「なんでそんなところにそれが入っているのか?」「なるほどそういう意図だったのかも!?」「それまだ読んでいないけれど、その並びで見るとなんだかめちゃくちゃ面白そう」などなど興味は尽きない。

そういった“本筋”ももちろんだが、“あのストルガツキーによる芥川解説!?”とか、“もしも三島が割腹自殺をしなかったら、「世界の評価」は変わっていたかも?”など“枝葉”の部分も面白い。


あえてことわるまでもなく、多くの場合、外語で書かれた文学は読者の母語に翻訳されなければ、読まれることはなく、翻訳されるという時点で既に何らかの意図を持って取捨選択がなされているわけで、その“わけ”を読み解くこともまた、翻訳文学とのつきあい方の一つでもあるのだと改めて思ったりもした。


<世界文学といえば…リスト>
世界文学アンソロジー
世界の文学、文学の世界
世界文学大図鑑
8歳から80歳までの世界文学入門
早稲田文学 2015年冬号
    • 青地に金文字の装丁も格好いい
    • カヴァーを外すとこれがまた…。
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2234 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

読んで楽しい:6票
参考になる:31票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『「世界文学」はつくられる: 1827-2020』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ