ぽんきちさん
レビュアー:
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おとぎ話のお姫様のお料理エッセイ
新聞の書評で拾った1冊だったと思う。
図書館の順番が回ってきたころには、どうしてこの本を読もうと思っていたのか忘れてしまっていた。
読み始めて驚く。
「玄関を入ってくる人は、神さまが送ってくれた人だから、いつも暖かい気持ちでもてなさなければならない」
ロシア人の義父にこう言われた言葉を大切にしている著者。
異国の家に嫁ぎ、ロシアの料理を次々覚え、多くの友と楽しい時間を過ごし。
短いエッセイの合間に差し挟まれる、素敵な料理やデザートのレシピ。食欲をそそる匂い、甘やかな香りがふわりと漂う。
華やかなパーティーや華麗な交友関係。
アルゲリッチと親しく交わり、小澤征爾を「征爾」と呼び、音楽家たちと楽しく談笑し。
え、え、え? どういう方なんですか、この著者さんは?
何だか夢の中のお話のようだ。
著者・入江麻木は、巻末の略歴によると料理研究家。1942年白系ロシア貴族の末裔と結婚。義母から礼儀作法を、義父からロシア料理を教わったとのこと。娘の入江美樹は元ファッションモデルで指揮者の小澤征爾と結婚したという。ああ、そうなんだ、なるほど。
離婚後、50代で料理家としてスタート、多くの女性たちのあこがれの的だったという。
そうだったのか、とようやく得心が行く。
何だかおとぎ話のようなのだけれども、根底には温かさがある。
姫は氷のようにツンととりすましてはいないのだ(いや、お姫様が料理をするかといえばしないと思うのだけれど(^^;))。
どんなに豊かで、どんなに贅沢でも、根っこのところに「温もり」がなければ、おもてなしにはならない。
相手を思いやり、どうしたら喜ぶかと考え、笑顔を思い浮かべ、工夫を凝らし。
こうであればこそ、異国の家に嫁ぎ、夢のような世界に入っていけたのだろうか。
何冊の本からエッセイを編集したもので、時系列的には行ったり来たりである。
終戦間際だろうか、ものが不足していた時代のエピソードもある。
著者一家は野尻湖の別荘へと逃れる。
周囲の目は外国人に厳しい。もともとの別荘は誰とも知らぬ人に乗っ取られ、仕方なく、交渉の末、別の空き別荘に住むことになる。
とにかくものがない。お金があっても買うこともできない。加えて、著者の家は著者以外、すべて外国人である。自由に動き回ることもできない。そんな中で著者は孤軍奮闘、あれこれと必要なものを手に入れようとする。しかしそれでも、家の中に野山の花を飾ることを忘れない。義母はそんな嫁に感心する。
困窮していても花を飾る心のゆとり。
それこそが著者を形作っていったものなのだろう。
同じエッセイの中に、夫との話もある。
本当にものがない時代。幼いわが子に芋を食べさせてやりたいと、一瞬、著者の心に魔が差す。
盗もうか。
しかし、あのロシア人の奥さんが盗みを働いたと陰口を叩かれたら大変と彼女は思いとどまる。その話を夫にすると、「盗まなくていい、盗んだらいけない、今日はお米が手に入ったから」と抱きしめる。温かいエピソードである。
本文には記載がないのだが、経歴には離婚とあるので、この夫と別れてしまったのだろうか。それとも死別の後の再婚があったのだろうか。
人生のほろ苦さも感じる。
小澤征爾の娘、作家・エッセイストの征良(せいら)が一文を寄せる。
著者の文才や感性は、こうして次の世代、さらに次の世代へと受け継がれていくのだろう。
征爾の妻となった娘はモデルであったというから、その母の著者も美しい人だったのだろう。
そう、まるでおとぎ話のお姫様のように。
けれど、姫は、おそらく容姿ばかりではなく、心根の美しい人だったのだろう、と思う。
図書館の順番が回ってきたころには、どうしてこの本を読もうと思っていたのか忘れてしまっていた。
読み始めて驚く。
「玄関を入ってくる人は、神さまが送ってくれた人だから、いつも暖かい気持ちでもてなさなければならない」
ロシア人の義父にこう言われた言葉を大切にしている著者。
異国の家に嫁ぎ、ロシアの料理を次々覚え、多くの友と楽しい時間を過ごし。
短いエッセイの合間に差し挟まれる、素敵な料理やデザートのレシピ。食欲をそそる匂い、甘やかな香りがふわりと漂う。
華やかなパーティーや華麗な交友関係。
アルゲリッチと親しく交わり、小澤征爾を「征爾」と呼び、音楽家たちと楽しく談笑し。
え、え、え? どういう方なんですか、この著者さんは?
何だか夢の中のお話のようだ。
著者・入江麻木は、巻末の略歴によると料理研究家。1942年白系ロシア貴族の末裔と結婚。義母から礼儀作法を、義父からロシア料理を教わったとのこと。娘の入江美樹は元ファッションモデルで指揮者の小澤征爾と結婚したという。ああ、そうなんだ、なるほど。
離婚後、50代で料理家としてスタート、多くの女性たちのあこがれの的だったという。
そうだったのか、とようやく得心が行く。
何だかおとぎ話のようなのだけれども、根底には温かさがある。
姫は氷のようにツンととりすましてはいないのだ(いや、お姫様が料理をするかといえばしないと思うのだけれど(^^;))。
どんなに豊かで、どんなに贅沢でも、根っこのところに「温もり」がなければ、おもてなしにはならない。
相手を思いやり、どうしたら喜ぶかと考え、笑顔を思い浮かべ、工夫を凝らし。
こうであればこそ、異国の家に嫁ぎ、夢のような世界に入っていけたのだろうか。
何冊の本からエッセイを編集したもので、時系列的には行ったり来たりである。
終戦間際だろうか、ものが不足していた時代のエピソードもある。
著者一家は野尻湖の別荘へと逃れる。
周囲の目は外国人に厳しい。もともとの別荘は誰とも知らぬ人に乗っ取られ、仕方なく、交渉の末、別の空き別荘に住むことになる。
とにかくものがない。お金があっても買うこともできない。加えて、著者の家は著者以外、すべて外国人である。自由に動き回ることもできない。そんな中で著者は孤軍奮闘、あれこれと必要なものを手に入れようとする。しかしそれでも、家の中に野山の花を飾ることを忘れない。義母はそんな嫁に感心する。
困窮していても花を飾る心のゆとり。
それこそが著者を形作っていったものなのだろう。
同じエッセイの中に、夫との話もある。
本当にものがない時代。幼いわが子に芋を食べさせてやりたいと、一瞬、著者の心に魔が差す。
盗もうか。
しかし、あのロシア人の奥さんが盗みを働いたと陰口を叩かれたら大変と彼女は思いとどまる。その話を夫にすると、「盗まなくていい、盗んだらいけない、今日はお米が手に入ったから」と抱きしめる。温かいエピソードである。
本文には記載がないのだが、経歴には離婚とあるので、この夫と別れてしまったのだろうか。それとも死別の後の再婚があったのだろうか。
人生のほろ苦さも感じる。
小澤征爾の娘、作家・エッセイストの征良(せいら)が一文を寄せる。
著者の文才や感性は、こうして次の世代、さらに次の世代へと受け継がれていくのだろう。
征爾の妻となった娘はモデルであったというから、その母の著者も美しい人だったのだろう。
そう、まるでおとぎ話のお姫様のように。
けれど、姫は、おそらく容姿ばかりではなく、心根の美しい人だったのだろう、と思う。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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この書評へのコメント
- Wings to fly2020-09-01 21:20
このサイトで入江麻木さんの本の書評が読める日が来るとは思いもしませんでした。母の本棚にあった何冊かのお料理の本、レシピも素敵でしたが、添えられた文章が子供心にも楽しくて幸福な気持ちになったことを懐かしく思い出しました。そこに登場したお孫さんたち、俳優の小澤征悦さんとエッセイストの小澤征良さんの、後の活躍ぶりも「表現者の血を受け継いでるんだー。」と思ったことでした。
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