休蔵さん
レビュアー:
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歴史学では、なかなか取り上げられない領域の話がある。そして、そんな分野にこそ情熱を傾ける在野の研究者がいる。本書はそんな情熱が結晶化したような1冊である。
本書は松岡正剛と内藤正敏の対談形式で綴られている。
テーマは幅広く、霊山、山伏、ミイラ、大仏、曼荼羅などなど・・・
幅広いテーマであるが、日本の歴史学では主流になりにくものばかり。
この幅広いテーマに結実した波形には、松岡の対談相手となった内藤の経歴が関係しているようだ。
早稲田大学工学部を卒業した後、倉敷レイヨン中央研究所に勤務し、ポリビニルアルコールの研究に従事。
高分子化合物と化学薬品の反応で起こる偶然の造形を写す新しい実験写真を展開。
1963年、出羽湯殿山の即身仏と出会う。
その後、写真家に転身。
山伏修行も実践し、免状も取得。
ここでは王道の日本史の事象は、むしろ脇に退いてもらっている感がある。
そして、国家形成や運営の裏に蠢く集団、特に金属生産と関係する集団に着目する。
彼は修験道や密教に従事しつつ、さまざまな鉱物を探索して、金属に精錬する。
「鉄は国家なり」という言葉があるが、鉄を筆頭に様々な金属は人々の生活を便利にしてきた。
しかしながら、強力な武器の素材として人の命を奪うこともあった。
それが蓄積されて武装集団となった場合、それは国家を脅かす存在になりかねない。
国家にとっては重大問題だ。
さまざまな金属の精錬に長けた修験道や密教の従事者は、鉱物を求めて山に入る。
山に籠っていてくれれば、国家が抱える不安は軽減される。
そして、山に籠った結果、彼らの存在は歴史の表舞台から隠れてしまったのだろう。
しかし、完全に覆い隠すことはできず、ほころびがチラホラ。
そんなほころびを丹念に拾い集めると、そこからはまったく予期せぬような歴史観が浮上する。
例えば、奈良時代の大仏鋳造をとっても面白いテーマが浮かび上がっていた。
奈良の大仏の鋳造は、聖武天皇が仏教の力による鎮護国家を目指し、その実現のために具現化したものとされる。
金メッキが施されたその容貌は、見る人を魅了して仏教への帰依を進めることに。
しかしながら、金メッキを施す方法を考えると、そんなきれいごとでは済まされない。
金メッキには水銀を使用し、東大寺の大仏に関しては砒素の使用も分析結果として出されているとのこと。
そのため有毒な水銀ガスなどが発生し、人々の健康に著しい害を及ぼしたであろう。
相当数の死者も出たにちがいない。
そのことは想像の範囲内。
ここで内藤はとある出来事に着目する。
大仏本体ができあがった3日後、天平勝宝元年12月27日に奴婢(奴隷)200人が東大寺に施入されているということに。
これをどう理解するか。
内藤は金メッキの作業への人員投入を読み解く。
命がけの作業への大量人員投入は、人命の使い捨てと言える行為。
金ピカの大仏の闇を垣間見た気がした。
真実はいつもひとつだけど、見方次第で色彩はいくらでも豊かになる。
もちろん、それを読み解く独自の視点が不可欠だし、それを裏付ける豊富な知識も欠かせない。
そして、フィールドで肌で感じることも、歴史学の重要な方法論の一つなのかもしれない。
歴史学といえば史料を紐解くことから始まると思いがちだが、実は多角的な方法論があり、自由な論の展開が可能になる、そのことを強く感じることができた1冊である。
テーマは幅広く、霊山、山伏、ミイラ、大仏、曼荼羅などなど・・・
幅広いテーマであるが、日本の歴史学では主流になりにくものばかり。
この幅広いテーマに結実した波形には、松岡の対談相手となった内藤の経歴が関係しているようだ。
早稲田大学工学部を卒業した後、倉敷レイヨン中央研究所に勤務し、ポリビニルアルコールの研究に従事。
高分子化合物と化学薬品の反応で起こる偶然の造形を写す新しい実験写真を展開。
1963年、出羽湯殿山の即身仏と出会う。
その後、写真家に転身。
山伏修行も実践し、免状も取得。
ここでは王道の日本史の事象は、むしろ脇に退いてもらっている感がある。
そして、国家形成や運営の裏に蠢く集団、特に金属生産と関係する集団に着目する。
彼は修験道や密教に従事しつつ、さまざまな鉱物を探索して、金属に精錬する。
「鉄は国家なり」という言葉があるが、鉄を筆頭に様々な金属は人々の生活を便利にしてきた。
しかしながら、強力な武器の素材として人の命を奪うこともあった。
それが蓄積されて武装集団となった場合、それは国家を脅かす存在になりかねない。
国家にとっては重大問題だ。
さまざまな金属の精錬に長けた修験道や密教の従事者は、鉱物を求めて山に入る。
山に籠っていてくれれば、国家が抱える不安は軽減される。
そして、山に籠った結果、彼らの存在は歴史の表舞台から隠れてしまったのだろう。
しかし、完全に覆い隠すことはできず、ほころびがチラホラ。
そんなほころびを丹念に拾い集めると、そこからはまったく予期せぬような歴史観が浮上する。
例えば、奈良時代の大仏鋳造をとっても面白いテーマが浮かび上がっていた。
奈良の大仏の鋳造は、聖武天皇が仏教の力による鎮護国家を目指し、その実現のために具現化したものとされる。
金メッキが施されたその容貌は、見る人を魅了して仏教への帰依を進めることに。
しかしながら、金メッキを施す方法を考えると、そんなきれいごとでは済まされない。
金メッキには水銀を使用し、東大寺の大仏に関しては砒素の使用も分析結果として出されているとのこと。
そのため有毒な水銀ガスなどが発生し、人々の健康に著しい害を及ぼしたであろう。
相当数の死者も出たにちがいない。
そのことは想像の範囲内。
ここで内藤はとある出来事に着目する。
大仏本体ができあがった3日後、天平勝宝元年12月27日に奴婢(奴隷)200人が東大寺に施入されているということに。
これをどう理解するか。
内藤は金メッキの作業への人員投入を読み解く。
命がけの作業への大量人員投入は、人命の使い捨てと言える行為。
金ピカの大仏の闇を垣間見た気がした。
真実はいつもひとつだけど、見方次第で色彩はいくらでも豊かになる。
もちろん、それを読み解く独自の視点が不可欠だし、それを裏付ける豊富な知識も欠かせない。
そして、フィールドで肌で感じることも、歴史学の重要な方法論の一つなのかもしれない。
歴史学といえば史料を紐解くことから始まると思いがちだが、実は多角的な方法論があり、自由な論の展開が可能になる、そのことを強く感じることができた1冊である。
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- keena071511292020-09-22 07:45
>奴婢(奴隷)200人が東大寺に施入されている
これって“人柱”にされているんじゃ
大仏の下を掘るなんて罰当たりは
したことないでしょうから
案外 掘ったら人骨がザクザクと…クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - keena071511292020-09-23 06:00
>>休蔵さん
お返事ありがとうございます
『火の鳥』の“ヤマト編”でそういう場面がありました
(あれは大仏ではなかったと思いますが…)
確か“埴輪”も元々は生きた人間を埋めていたのを
その代わりとするようになったという話だった気がクリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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