紅い芥子粒さん
レビュアー:
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「お代わりをください」。そのひとことで、幼いオリバーは反逆者とみなされた。
オリバーといえば、世界一有名なみなしごだから、「オリバー・ツイスト」は読んだことはなくても、その物語は、知っているつもりでいた。
みなしご少年の愛と勇気の感動の物語。
じっさいに読んでみると、知っているつもりの中身とは、ずいぶんちがっていた。
チャールズ・ディケンズ(1812-1870)の二作目の長編だという。
物語の背景は19世紀半ばのイギリス。
産業革命期とはいうが、社会はまだまだ封建的だ。
オリバーは、救貧院で生まれた。父親はだれかわからない。
母親も、赤ん坊を産み落とすと、すぐに天に召されて行った。
子どもの権利とか児童福祉とか、そんな思想はなかった時代。
救貧院で生まれた孤児は、社会のやっかいものだった。
うすい粥しか与えられず、愛情の一滴も注がれなかったオリバーが、死なずに八歳まで育ったことは、奇跡に近いことだった。オリバーという名まえだって、アルファベット順にてきとうにつけられたものだったのだ。
「お代わりをください」
オリバーが、救貧院を追放されたのは、このひとことが原因だった。
育ち盛りの子どもたちには、あまりに少ない食べ物。
ひもじさに耐え切れず、申し出たひとことが、反逆とみなされたのだ。
オリバーが、街で盗賊団にスカウトされたのは、よくあることだったのだろう。
スリや強盗。寄る辺のない子どもを集めて悪事をはたらく悪い大人は、いつの時代にもどこの社会にもいるものなのだ。
盗賊団の一味になって、さあ、オリバーの冒険が始まるぞ……と、胸を高鳴らせたのだが、物語は、オリバーを置き去りにして、周辺の大人たちの話になっていく。
社会の底辺の吹き溜まりで、行き場もなく悪行に手を染めていった男や女の話。
かわいそうなオリバーを助ける、裕福な善なる紳士や淑女の話。
恵まれた善人の話より、この世の辛酸をなめつくした悪人の話の方がおもしろいのは、いうまでもない。
悪人たちは、みな無惨な最期を遂げる。残酷な死にざまの容赦のない描写に、作者の怒りを感じるのは、わたしだけだろうか。悪を生み出す社会への怒りである。
身元がわかり、父親の遺産を相続できたオリバー。
救われるのは、オリバーだけでいいのだろうか。
盗賊団の首領が処刑されて、その一味だった子どもたちはどうなるのだろう。
彼らは、みな貧しいみなしごで、盗賊団はかれらの居場所、首領は子どもたちの親のようなものだったのだから。
話があちこちへ散らばって読み難い小説だったが、19世紀のイギリス社会やロンドンの街のようすがよくわかっておもしろかった。このころ、イギリスでは、致死率が高い熱病が流行っていたようで、オリバーはじめ、善なる人も悪人も、作中人物の多くが、とつぜん高熱に襲われて死にかけていた。何の病気だろう。ペストかしら?
みなしご少年の愛と勇気の感動の物語。
じっさいに読んでみると、知っているつもりの中身とは、ずいぶんちがっていた。
チャールズ・ディケンズ(1812-1870)の二作目の長編だという。
物語の背景は19世紀半ばのイギリス。
産業革命期とはいうが、社会はまだまだ封建的だ。
オリバーは、救貧院で生まれた。父親はだれかわからない。
母親も、赤ん坊を産み落とすと、すぐに天に召されて行った。
子どもの権利とか児童福祉とか、そんな思想はなかった時代。
救貧院で生まれた孤児は、社会のやっかいものだった。
うすい粥しか与えられず、愛情の一滴も注がれなかったオリバーが、死なずに八歳まで育ったことは、奇跡に近いことだった。オリバーという名まえだって、アルファベット順にてきとうにつけられたものだったのだ。
「お代わりをください」
オリバーが、救貧院を追放されたのは、このひとことが原因だった。
育ち盛りの子どもたちには、あまりに少ない食べ物。
ひもじさに耐え切れず、申し出たひとことが、反逆とみなされたのだ。
オリバーが、街で盗賊団にスカウトされたのは、よくあることだったのだろう。
スリや強盗。寄る辺のない子どもを集めて悪事をはたらく悪い大人は、いつの時代にもどこの社会にもいるものなのだ。
盗賊団の一味になって、さあ、オリバーの冒険が始まるぞ……と、胸を高鳴らせたのだが、物語は、オリバーを置き去りにして、周辺の大人たちの話になっていく。
社会の底辺の吹き溜まりで、行き場もなく悪行に手を染めていった男や女の話。
かわいそうなオリバーを助ける、裕福な善なる紳士や淑女の話。
恵まれた善人の話より、この世の辛酸をなめつくした悪人の話の方がおもしろいのは、いうまでもない。
悪人たちは、みな無惨な最期を遂げる。残酷な死にざまの容赦のない描写に、作者の怒りを感じるのは、わたしだけだろうか。悪を生み出す社会への怒りである。
身元がわかり、父親の遺産を相続できたオリバー。
救われるのは、オリバーだけでいいのだろうか。
盗賊団の首領が処刑されて、その一味だった子どもたちはどうなるのだろう。
彼らは、みな貧しいみなしごで、盗賊団はかれらの居場所、首領は子どもたちの親のようなものだったのだから。
話があちこちへ散らばって読み難い小説だったが、19世紀のイギリス社会やロンドンの街のようすがよくわかっておもしろかった。このころ、イギリスでは、致死率が高い熱病が流行っていたようで、オリバーはじめ、善なる人も悪人も、作中人物の多くが、とつぜん高熱に襲われて死にかけていた。何の病気だろう。ペストかしら?
掲載日:
書評掲載URL : http://blog.livedoor.jp/aotuka202
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:0
- ISBN:9784102030073
- 発売日:2017年04月28日
- 価格:1034円
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