ぽんきちさん
レビュアー:
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その手があったか的な「お仕事小説」集
若手人気作家、朝井リョウ。彼が原作の映画は見たことがあったのだが、そういえば作品をきちんと読んだことがない。本書の書評をどこかで目にして、おもしろそうかと手に取ってみた。
若手というけれども、作家生活10周年になるのだそうで、それを記念したような1冊である。
人気作家ともなれば、いろんなところから仕事の依頼が舞い込む。企業の広告となるような短い創作やエッセイ、他の番組や作品とタイアップした小品などという企画もある。
一般に「お仕事小説」といえば、何かしらの職業に就く人が悩んだり躓いたり時には喜んだりしながら「仕事」と向き合う様を描く小説だが、職業作家ともなれば、「仕事」として小説を書くことを求められるわけである。こうして書かれる小説は、ある意味、本当の「お仕事小説」と言えなくもない。
作家・朝井、10年のキャリアの中で、そんな仕事も数多くこなしてきた。そこで考えた。ミュージシャンならそんな作品をまとめてアルバムを売り出すこともあるわけで、作家だってそういう風にしてもよくない・・・?
それでできたのがこの1冊。
企業や作品とのタイアップによって生まれた小説やエッセイ、20作品をまとめたものである。
だが、この人のサービス精神は、発表時のままのものを提供するだけでは終わらなかった。「発注内容(テーマや枚数など)」→「実際の作品」→「発注にどのように答えたかの裏話、感想戦」という構成になっているのが本書の特徴的なところである。
依頼元は、菓子メーカーやビール会社、タバコ会社、出版社、競馬会、化粧品会社、商店街とさまざまである。
例えば企業の広告であれば、あからさまにある商品を推すわけではなくても、やはり何となく好感を持ってもらわなくてはならないわけである。発注内容は、「ほっとできる」とか「さわやか」とか「人生の相棒をイメージできる」とか、かなり曖昧であるが、そこからイメージを膨らませて作品に仕上げるのが職業作家の腕の見せ所といったところか。
制約のあるところから、あるいは異質のものとの出会いが、作家自身も気づかなかった自らの内なるものを揺さぶることもあるのだろう。
また、各作品を振り返っての「感想戦」も結構シニカルで、短文であるのに「ふーん、作家というのはこういうことを考えているのか」と感心させたり笑ったりさせるのはさすがといったところか。
というわけで、全体にこの構成はなかなかおもしろいのだが。
肝心の作品にあまりピンとくるものがなかった。
・・・と言っては身も蓋もないのだが。
何だろうか、観察眼の鋭さとか今っぽさは端々に感じさせるのだが、物語としてフックしてくるものがあまりない。それは読み手である自分の年齢のせいかもしれないが、それ以前に多分、感性の違いのせいというか、自分が物語に求めているものとこの作家さんが追求しているものがずれているような気がする。
もう1つ、商品の広告としては、斜め上を行き過ぎていて、今一つはまっているのか微妙な感じのものが結構あるように思う。
・・・いや、これも発注元が納得されているのなら大きなお世話なのだが。
多分、ものすごくサービス精神のある人なんだろうと思う。あれこれと工夫されているのも見え隠れする。けれども、例えば、アサヒビールのラベルに注目した作品は、いくら何でもちょっと無理があると思う。
おそらく、この人の持ち味は、人に好感を持たせるほのぼの系の(広告向きな?)物語より、もう少し「えぐる」感じの小説なのではないかな、と読んでいて思ったり。
いずれにしても、朝井リョウの最初の1冊に最適な作品ではなかったのかもしれない。
いや、まぁそれなりには楽しく読んだのだが。
若手というけれども、作家生活10周年になるのだそうで、それを記念したような1冊である。
人気作家ともなれば、いろんなところから仕事の依頼が舞い込む。企業の広告となるような短い創作やエッセイ、他の番組や作品とタイアップした小品などという企画もある。
一般に「お仕事小説」といえば、何かしらの職業に就く人が悩んだり躓いたり時には喜んだりしながら「仕事」と向き合う様を描く小説だが、職業作家ともなれば、「仕事」として小説を書くことを求められるわけである。こうして書かれる小説は、ある意味、本当の「お仕事小説」と言えなくもない。
作家・朝井、10年のキャリアの中で、そんな仕事も数多くこなしてきた。そこで考えた。ミュージシャンならそんな作品をまとめてアルバムを売り出すこともあるわけで、作家だってそういう風にしてもよくない・・・?
それでできたのがこの1冊。
企業や作品とのタイアップによって生まれた小説やエッセイ、20作品をまとめたものである。
だが、この人のサービス精神は、発表時のままのものを提供するだけでは終わらなかった。「発注内容(テーマや枚数など)」→「実際の作品」→「発注にどのように答えたかの裏話、感想戦」という構成になっているのが本書の特徴的なところである。
依頼元は、菓子メーカーやビール会社、タバコ会社、出版社、競馬会、化粧品会社、商店街とさまざまである。
例えば企業の広告であれば、あからさまにある商品を推すわけではなくても、やはり何となく好感を持ってもらわなくてはならないわけである。発注内容は、「ほっとできる」とか「さわやか」とか「人生の相棒をイメージできる」とか、かなり曖昧であるが、そこからイメージを膨らませて作品に仕上げるのが職業作家の腕の見せ所といったところか。
制約のあるところから、あるいは異質のものとの出会いが、作家自身も気づかなかった自らの内なるものを揺さぶることもあるのだろう。
また、各作品を振り返っての「感想戦」も結構シニカルで、短文であるのに「ふーん、作家というのはこういうことを考えているのか」と感心させたり笑ったりさせるのはさすがといったところか。
というわけで、全体にこの構成はなかなかおもしろいのだが。
肝心の作品にあまりピンとくるものがなかった。
・・・と言っては身も蓋もないのだが。
何だろうか、観察眼の鋭さとか今っぽさは端々に感じさせるのだが、物語としてフックしてくるものがあまりない。それは読み手である自分の年齢のせいかもしれないが、それ以前に多分、感性の違いのせいというか、自分が物語に求めているものとこの作家さんが追求しているものがずれているような気がする。
もう1つ、商品の広告としては、斜め上を行き過ぎていて、今一つはまっているのか微妙な感じのものが結構あるように思う。
・・・いや、これも発注元が納得されているのなら大きなお世話なのだが。
多分、ものすごくサービス精神のある人なんだろうと思う。あれこれと工夫されているのも見え隠れする。けれども、例えば、アサヒビールのラベルに注目した作品は、いくら何でもちょっと無理があると思う。
おそらく、この人の持ち味は、人に好感を持たせるほのぼの系の(広告向きな?)物語より、もう少し「えぐる」感じの小説なのではないかな、と読んでいて思ったり。
いずれにしても、朝井リョウの最初の1冊に最適な作品ではなかったのかもしれない。
いや、まぁそれなりには楽しく読んだのだが。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:集英社
- ページ数:0
- ISBN:9784087716993
- 発売日:2020年03月05日
- 価格:1760円
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