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ぱせりさん
ぱせり
レビュアー:
一人上手たちの物語。
この短編集、九つの物語の主人公たちは、一見、誰かに合わせるよりも一人で行動することのほうが得意なように見える。だけど、ほんとうはひととの距離の取り方がわからないでいるのかもしれない。
心に刺さったままのトゲを抜くこともできずに(あまりに小さいので見過ごしたまま)過ごしてきたのかもしれない。
主人公たちのその時その時の心の動きの無邪気さが心地いいなあと思いながら、その一方で隣り合ったところにある暗い穴のようにシュールで気持ちの悪いものは、そうしたトゲの別の姿ではないか。


『サキの忘れ物』が一番好き。
「親を始めほとんどの人間からまともに扱われず、あらゆることを教えられてこなかった千春」が、あるきっかけから、本と出会う。一冊の本との関わりから、まるで止まったような彼女の時間が、ゆっくりと動き出したようだった。


千春は、人との距離の取り方が分からない。千春だけではない、他の物語の主人公たちもそう。
それはもしかしたら、他人と自分との境界がわからない、ということかもしれない。自分が見えないから他人もみえない。あるいは逆だろうか。
そんなとき、直接ではなく、本でも、想像の友だちでも、もっといえば、ラジオでも聞くように周りの人の声を聞くことでもいい、些細な何か別のものを仲介にして、他と関わることで、気がつくこともあるのだろう。それが何かのきっかけになることもあるのだろう。それは少し元気になる話ではないか。


『王国』の主人公は幼稚園児。自慢したいような大きな膝の怪我を毎日観察(以上のことを)する。日々変貌していく傷は彼女の王国。うっと思うほどに気持ち悪いのだけれど、変幻自在の小さな傷の世界に伸びやかに遊ぶ想像力が素敵なのだ。
『河川敷のガゼル』もよかった。「行け」に、主人公とともにわたしも頷く。
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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1742 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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