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darklyさん
darkly
レビュアー:
自分では偏見はあまりないと思っていたが無知であった。無知が偏見を生むのだからこの本を読んで良かったと思います。 #カドフェス
カドフェス制覇の終盤、残った作品の中から題名からして最も読まなさそうな作品を読もうと思いまして本書を手に取りました。結論的には読んでよかったと思います。小説自体はまあ普通の青春恋愛小説でありますが知らなかったゲイの文化などが盛り込まれており私には啓蒙小説として有意義な読書体験でした。

ゲイであることを隠し年上の既婚男性と関係を持ちながら普通の高校生活を送る安藤純はある日同級生の三浦紗枝が腐女子(男性同士の恋愛物を嗜好する女性)であることを偶然知ったが、それを隠したい彼女から秘密を守るように懇願される。彼女としては安藤純に関心を持たざるを得ない状況であるがそれが恋愛と発展してしまう。

ゲイであることを悩み恋人の既婚男性マコトさんと同じように普通に結婚し子供も欲しいと思う純は三浦紗枝からの告白を受け入れ交際を始める。がしかし、やはり純にはどうしても紗枝を性的な対象とすることができない。やがてある事件をきっかけに紗枝にゲイであることを知られ、また紗枝との会話を同級生に聞かれクラスにゲイであることを知られてしまう。

偏見の視線が突き刺さる中、同級生とのケンカからゲイであることを母親にも知られることになった純ははたして自分自身と社会との折り合いをどうつけていくのか?紗枝やマコトさんとの関係はどうなっていくのか?

この小説はTrack1から8までそしてBonus Trackとミュージックアルバムの構成となっていますが、章の名前はすべてクイーンの曲名となっています。そして小説中にもふんだんにクイーンの曲が登場します。私は知らなかったのですがフレディマーキュリーがゲイであるのかバイセクシャルであるのか論争があるようです。映画「ボヘミアン・ラプソディ」では当初異性愛者であったフレディは自分がゲイであることに気付く設定になっていたように思います。

ではゲイとバイセクシャルはどう違うのか?つまり女性ともできるゲイとバイセクシャルは行為においては同じでも違いはそこに愛があるかどうかだと小説では語られます。行為とは別にゲイは男性しか愛せない、バイはどちらとも愛せるということです。私にはピンときませんがフレディはゲイだと考えるゲイの人たちにとってバイであるという考えは容認できない、フレディは世界最高のボーカリストであると同時にゲイのシンボルでもあるのでしょう。

しかし私はそのように単純に分類されることをフレディが望むだろうかとも思います。人間と言う生物は自分たちが考えるよりもはるかに複雑なのだろうと思います。同性愛者とひと口に言っても、先天的な場合も後天的な場合もあるでしょうし、自覚しないまま一生を終える同性愛者も沢山いるでしょう。自分自身のことを完全に分かっている人がこの世にいるのでしょうか?トランスジェンダーの場合はそのくくりにも入りません。この小説で語られるのはあくまでも作者の考えでありゲイの中でも様々な意見があるのでしょう、それは自明なことだろうと思います。

同性愛者には差別という言葉がつきまといますが、難しいと思うのは人種差別や社会的身分による差別など人間社会が作り出したものについては根絶すればよいだけのものに対し、有性生殖により命をつなぐ人間にとって同性愛者をどう考えるかは悩ましい問題です。もちろん個人レベルでの差別は言語道断ですべての人は自分の人生を生きたいように生きる権利があるのは当然ですが、社会制度としてどう遇するのかは為政者としては悩ましいところだろうと思います。

なぜ有性生殖動物である人間に同性愛者が生まれるのか?その答えはどこにもありませんが、一定の数の同性愛者が天敵がおらずいくらでも数を増やすことができる人類が人口爆発によって自らの首を絞めることを防ぐ安全装置のようなものであったとしたら恐るべき神の慧眼と言わざるを得ません。

いずれにせよ、LGBTが社会的に認知され多様な生き方が肯定されることは素晴らしいことだと思います。20年前であったらカドフェスにこのような作品が選ばれることはなかっただろうと思います。私は何か差別的な匂いのする「ホモ」という言葉が嫌いなので書評では「ゲイ」と書かせてもらいましたが、作者はあえて「ホモ」という言葉を使うことによって胸を張っていけとエールを込めたのだろうと推測します。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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この書評へのコメント

  1. keena071511292020-08-10 10:42

    僕はLGBTのうち 
    トランスジェンダーを他の3つと一括りにすることに 
    疑問を覚えます 
    LGBは性的志向です 
    世間に受け入れられることは絶対にないであろう 
    ペドフィリア(幼児性愛者)も性的志向です 

    ところがトランスジェンダーはアイデンティティの問題であり 
    肉体は男性であっても精神性が女性であるなら 
    異性である男性に惹かれるのは当然のこと 
    性的志向ではありません 

    外部から見たら同じことでしょうが 
    本人にすれば心外でしょう 

    先日 新聞で見ましたが 
    トランスジェンダーで更にLGBの人もいるそうです 
    肉体は男性で心は女性 
    性的志向はL 
    一周回って女性を愛する男性ですが 
    本人としては二重の苦しみなのだとか

  2. darkly2020-08-10 11:54

    コメントありがとうございます。Keena07151129さんのご指摘の通りだと私も思います。そして同じ性的志向でもその度合いも人によってそれぞれで、小説のマコトさんは家庭も子供もいるのに対し主人公の純はそれはできません。人はまさに人それぞれですね。

  3. No Image

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