三太郎さん
レビュアー:
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なんとも奇妙な「菌類」の世界。(7月の新刊です)
梨木さんの沼地のある森を抜けてにヒロインの恋人が飼っていた粘菌が登場する。一つの細胞に無数に多くの「核」を持っていて単細胞なのか多細胞なのかも分らないし、一つの個体が二つに割れたり、二つの個体が融合したりする。粘菌には「性」なんかないんじゃないかと思っていたら、胞子を作って他の胞子と融合する。雌雄があるらしい。有性生殖と無性生殖を並行して行う奇妙な生き物だった。
菌にとって「性」とは何だろうと疑問に思っていたらこの新刊が目にとまった。
この本を読むと、「菌」と一括りに言っても中身は多彩なことが分かる。カビやキノコや酵母以外にも様々な菌があり、ざっくりいえば、細胞のなかに核が一個ないし複数個あり、胞子を作る生き物で植物でない(葉緑体がない)ものということになるのかな。細胞内に「核」があることで乳酸菌などの細菌とは区別されるらしい。
昔(といっても僕が子供の頃)は生物は「動物界」と「植物界」に分けられていたが、今では3ドメインに分けられるとか。ドメインの一つの「真核生物」はさらに五つのスーパーグループに分けられるという。
アメーボゾアはアメーバ状の生き物で前出の粘菌はこの仲間だ。オピストコンタは動物(人や昆虫など)と狭義の菌類(カビやキノコ)と原生動物を含む。カビと人間はともにこのグループだというのが不思議だ。この2グループは10億年前に分かれたのだという。
他の3グループはエクスカバータ(ミドリムシなど)、アーケプラスチダ(植物や藻類)、SAR(ゾウリムシなど)だ。
生物進化の歴史では菌類は人間に近いらしい。
でも菌類の生き方は人間を含む哺乳類とはかけ離れている。細胞に核が二つ以上あるのは普通だし、その核の中のDNAも単相がメインだ。単相というのは哺乳類なら母親からと父親からの二組のDNAがペアになっている(複相)のとことなり、一組のDNAしかない。さらにもっと不思議なのは、一組のDNAの核と、それとは遺伝情報の異なるもう一組別のDNAの核が同じ細胞内にある菌もいるという。
人間には単相の卵子と精子が融合して複相の胚が生じる以外の生殖方法は(iPS細胞を除けば)ないが、菌類は多彩な生殖方法(無性生殖、有性生殖と準有性生殖)をもっており、人間は生殖方法の観点からは退化した生き物かもしれないなあ。
梨木さんの小説では沼の中からクローン人間が生まれてくるのだが、人間が先祖帰りして無性生殖できるようになったという設定なのかも。
後半は特徴のある様々な菌類が紹介されている。
面白かったのはビール酵母の話だ。ペールエールの発酵に用いられる上面発酵酵母は大昔から人類に利用されてきたが、ラガービールに用いられる下面発酵酵母は15世紀にドイツで見つけられた。その酵母は上面発酵酵母ともう一つの未知の酵母から生まれたらしい。その未知の酵母は最近になって南米のパタゴニアで発見された。南米のナンヨウブナに居ついている酵母だった。南米大陸に西洋人が到達してから、ジャガイモなどと共にその酵母はドイツにやって来て、ビール酵母になったのかもしれない。
ラガービールは低温で発酵させるが、パタゴニア生まれの低温に強い酵母の性質が下面発酵酵母には必要だったのかな。
また匂いを出す菌の話もある。胞子をハチに広めてもらおうとハチが好きな甘い香りを出す菌があれば、ハエを寄せるために臭い匂いを出す菌もあるとか。
動物を捕食する菌もいる。冬虫夏草は昆虫につくキノコだが、地中で線虫を捕まえる菌類もいろいろいるとか。
そんな菌にまつわる面白い話が沢山載っています。難を言えば、難しい専門用語が多いことと、著者のダジャレがちょっと煩いことぐらいかな。
菌にとって「性」とは何だろうと疑問に思っていたらこの新刊が目にとまった。
この本を読むと、「菌」と一括りに言っても中身は多彩なことが分かる。カビやキノコや酵母以外にも様々な菌があり、ざっくりいえば、細胞のなかに核が一個ないし複数個あり、胞子を作る生き物で植物でない(葉緑体がない)ものということになるのかな。細胞内に「核」があることで乳酸菌などの細菌とは区別されるらしい。
昔(といっても僕が子供の頃)は生物は「動物界」と「植物界」に分けられていたが、今では3ドメインに分けられるとか。ドメインの一つの「真核生物」はさらに五つのスーパーグループに分けられるという。
アメーボゾアはアメーバ状の生き物で前出の粘菌はこの仲間だ。オピストコンタは動物(人や昆虫など)と狭義の菌類(カビやキノコ)と原生動物を含む。カビと人間はともにこのグループだというのが不思議だ。この2グループは10億年前に分かれたのだという。
他の3グループはエクスカバータ(ミドリムシなど)、アーケプラスチダ(植物や藻類)、SAR(ゾウリムシなど)だ。
生物進化の歴史では菌類は人間に近いらしい。
でも菌類の生き方は人間を含む哺乳類とはかけ離れている。細胞に核が二つ以上あるのは普通だし、その核の中のDNAも単相がメインだ。単相というのは哺乳類なら母親からと父親からの二組のDNAがペアになっている(複相)のとことなり、一組のDNAしかない。さらにもっと不思議なのは、一組のDNAの核と、それとは遺伝情報の異なるもう一組別のDNAの核が同じ細胞内にある菌もいるという。
人間には単相の卵子と精子が融合して複相の胚が生じる以外の生殖方法は(iPS細胞を除けば)ないが、菌類は多彩な生殖方法(無性生殖、有性生殖と準有性生殖)をもっており、人間は生殖方法の観点からは退化した生き物かもしれないなあ。
梨木さんの小説では沼の中からクローン人間が生まれてくるのだが、人間が先祖帰りして無性生殖できるようになったという設定なのかも。
後半は特徴のある様々な菌類が紹介されている。
面白かったのはビール酵母の話だ。ペールエールの発酵に用いられる上面発酵酵母は大昔から人類に利用されてきたが、ラガービールに用いられる下面発酵酵母は15世紀にドイツで見つけられた。その酵母は上面発酵酵母ともう一つの未知の酵母から生まれたらしい。その未知の酵母は最近になって南米のパタゴニアで発見された。南米のナンヨウブナに居ついている酵母だった。南米大陸に西洋人が到達してから、ジャガイモなどと共にその酵母はドイツにやって来て、ビール酵母になったのかもしれない。
ラガービールは低温で発酵させるが、パタゴニア生まれの低温に強い酵母の性質が下面発酵酵母には必要だったのかな。
また匂いを出す菌の話もある。胞子をハチに広めてもらおうとハチが好きな甘い香りを出す菌があれば、ハエを寄せるために臭い匂いを出す菌もあるとか。
動物を捕食する菌もいる。冬虫夏草は昆虫につくキノコだが、地中で線虫を捕まえる菌類もいろいろいるとか。
そんな菌にまつわる面白い話が沢山載っています。難を言えば、難しい専門用語が多いことと、著者のダジャレがちょっと煩いことぐらいかな。
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1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。
長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。
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- 出版社:筑摩書房
- ページ数:0
- ISBN:B08BTV44GR
- 発売日:2020年07月10日
- 価格:770円
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