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darklyさん
darkly
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一級の本格SFでありながら社会学・哲学・歴史学を重層的に盛り込み、かつリーダビリティ溢れるエンターテイメントとしても両立させているという稀有な作品。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

上下巻まとめての書評となります。
科学技術が人類よりも圧倒的に進んでいる太陽が三つある三体世界文明から地球侵略のための艦隊が出撃した。距離は4.21光年、時間にして400年ほどで地球に到達する。人類は恐怖に慄いた。地球上のすべての言動・行動は三体人が地球に送り込んだ陽子のスーパーコンピューター智子(ソフォン)により監視され、またソフォンにより科学の基礎研究の発展も阻害されている。唯一つけ入る隙があるとすれば三体人には虚偽という概念がないことだ。

三体人同士ではお互いの思考を読むことができるため嘘をつくことはできない、ただ人類の思考は読むことができないため、これが人類に残された唯一の希望であった。それを利用するために国連は面壁計画を発動した。面壁計画とは三体文明に対抗するあらゆる対策は公にすれば即座に三体文明の知るところとなるため人類から選ばれた面壁者の頭の中だけで策定し、表面上の言動・行動についてはいわゆる迷彩を施したものとし、三体世界にその真意を分からないようにしながら実行するというものである。

当然面壁者には優れた知性・リーダーシップ・業績を持つものが選ばれるはずだが選ばれた4人の中には人格・業績等から見ても一見ふさわしくない羅輯(ルオ・ジー)が入っていた。困惑するルオはなぜ自分なのかと国連事務総長のセイに聞くがセイも分からないという。実はルオは自身でも気が付いていなかったのだが三体世界から暗殺の魔の手が忍び寄っていたのだ。つまり理由は分からないが三体世界から暗殺を計画されるほど恐れられているという一点により面壁者に選ばれたのだ。

200年後人工冬眠からルオが目覚めると人類は以前の極端な悲観主義から極端な楽観主義に変化していた。その現状に懐疑的なのはルオのような冬眠から目覚めた21世紀の人間たちだった。三体文明の艦隊が到着するまでまだ200年あるが探査機と思われる物体が太陽系に到達したため人類は主力艦隊1,000隻により調査に向かう。そこで見せつけられた圧倒的な科学技術力の差により人類はパニック状態となる。ルオはなぜ面壁者に選ばれたのか、そしてどのような行動にでるのか。

第一部にも圧倒されましたが、この第二部(黒暗森林)のスケールの大きさには更なる驚愕が待っていました。もちろんベースとしてはハードSFなのですが面壁者対破壁者(面壁者の計画を暴くため三体側から送り込まれた者)の知的バトル、数百年という長い時間における人類の物の考え方の移ろい、そして一度や二度ではない全く予想ができない展開。

中でも最も感銘を受けたのがルオが葉文潔から託された宇宙社会学という学問の中にフェルミのパラドックスの一つの見解が盛り込まれているところです。宇宙にも哲学にも興味がある私にとっては小説でありながら何か科学ノンフィクションを読んでいるかのような知的興奮を抑えられない読書体験となりました。

また未来の人間についても鋭い洞察が見られます。200年後の人々の奇妙な楽観はほとんどの読者に違和感をもたらすと思います。なぜ三体文明よりも自分たちの方が勝っていると考えるのだろうかと。実はそこには冷徹に現実を見据える目はありません。物を真剣に考えなくても平和で生命の危険がなく快適な世界にどっぷり浸かった人々は多分根拠なき楽観ととても脆い精神を兼ね備えた謂わば子供がそのまま大きくなったような存在になるのではないかというのが作者の考えではないかと思います。現に三体文明の恐ろしさを目の当たりにした人々は狼狽え泣き叫び社会は混迷を極めます。

ところで解説では過去の名作のオマージュとなっていることが紹介されています。大きな影響という意味では「ファウンデーション」や「2001年宇宙の旅」などが挙げられていますが、小さいところで私は三体世界の探査機、表面が滑らかでどうやっても傷つけることができないという設定がハリイ・ベイツの「Farewell to the Master」(映画「地球が静止する日」原作)の船のイメージにダブりました。

本書は多くの方にお薦めできると思います。SFや科学技術系の言葉は沢山出てきますが肝心な部分には必ず解説がついておりSFが苦手な人でも物語の大筋を見失うことはないと思います。来年予定されている三体Ⅲ(死神永生)が楽しみでなりません。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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