紅い芥子粒さん
レビュアー:
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男が横浜の郊外に豪邸を建てた。別れた妻と二人の娘を呼び戻すために。借金なんか死ねば生命保険で返せるさ、とうそぶいて。
ずいぶん昔に買って、積読になっていた一冊。開いてみると、紙が黄ばんで少々かびくさい。奥付きには、「1999年5月10日第一刷」とある。さては、20年も本棚の飾りになっていたのか、ごめんね、さびしい思いさせてと、心の中であやまりながら読み始めた。
男が、横浜の郊外に大きな家を建てる。金に糸目をつけずに建てた豪邸。
彼には、別れた妻と二人の娘がある。
妻は別の男と同棲している。
長女の素美は演劇公演のブッキングの仕事を生業にしている。
二女の羊子はいかがわしい映画に出演して生活費を稼ぎながら、女優を目指している。
物語の語り手は、長女の素美である。
男は家を建てたから帰っておいでと、妻と二人の娘を呼び戻そうとするが、三人とも誘いには応じない。
男は、めちゃくちゃな人物なのである。
職業はパチンコ店の支店長で、給料は悪くないのに、家族に渡す生活費は、ほんの数万円。収入のほとんどを競馬や競輪、その他よくわからないことで散財してしまう。当然、蓄えはない。
手持ちの資金があるわけでも、ローンを組んだわけでもないのに、工務店に豪邸を建てさせてしまった。自分が死ねば、生命保険で払えるからいいだろっなんてうそぶいて。
男は、生活破綻者というだけではない。
素美の回想で、徐々に明らかになるのは、妻やその母への暴力、まだ幼かった素美への性的虐待。
人格も破綻しているのだ。
ある日、どうしてもきてくれと電話で乞われ、素美が父の豪邸に行くと、見知らぬ家族が、わがもの顔で家の中にのさばっている。いきさつはわからないが、父は、ホームレスの一家を豪邸に誘い入れたのだった。
その一家は、小学生の男の子と女の子がいる四人家族。営んでいた電気店が倒産してホームレスになったという。
賃貸とか、間貸しとかいうのではない、家をのっとられてしまったという感じ。
家主である父は、居場所をうしない、豪邸の中をうろうろしている。
ホームレス一家は、ずうずうしいだけではなかった。
父親は、暴力で子どもを支配していた。
そういう親に反発し反抗する女の子に、素美は、過去の自分を重ねて見る……
かなり深刻なテーマを扱っているのに、妙にコミカルな小説だった。
この小説が書かれたころにNHK教育で放送されていたドラマ「フルハウス」は、差別・貧困・虐待など深刻な問題をあつかいながらも、抱腹絶倒のホームコメディだった。
作者は、深刻な喜劇を目指したのかもしれない。だから「フルハウス」なんだと思った。
男が、横浜の郊外に大きな家を建てる。金に糸目をつけずに建てた豪邸。
彼には、別れた妻と二人の娘がある。
妻は別の男と同棲している。
長女の素美は演劇公演のブッキングの仕事を生業にしている。
二女の羊子はいかがわしい映画に出演して生活費を稼ぎながら、女優を目指している。
物語の語り手は、長女の素美である。
男は家を建てたから帰っておいでと、妻と二人の娘を呼び戻そうとするが、三人とも誘いには応じない。
男は、めちゃくちゃな人物なのである。
職業はパチンコ店の支店長で、給料は悪くないのに、家族に渡す生活費は、ほんの数万円。収入のほとんどを競馬や競輪、その他よくわからないことで散財してしまう。当然、蓄えはない。
手持ちの資金があるわけでも、ローンを組んだわけでもないのに、工務店に豪邸を建てさせてしまった。自分が死ねば、生命保険で払えるからいいだろっなんてうそぶいて。
男は、生活破綻者というだけではない。
素美の回想で、徐々に明らかになるのは、妻やその母への暴力、まだ幼かった素美への性的虐待。
人格も破綻しているのだ。
ある日、どうしてもきてくれと電話で乞われ、素美が父の豪邸に行くと、見知らぬ家族が、わがもの顔で家の中にのさばっている。いきさつはわからないが、父は、ホームレスの一家を豪邸に誘い入れたのだった。
その一家は、小学生の男の子と女の子がいる四人家族。営んでいた電気店が倒産してホームレスになったという。
賃貸とか、間貸しとかいうのではない、家をのっとられてしまったという感じ。
家主である父は、居場所をうしない、豪邸の中をうろうろしている。
ホームレス一家は、ずうずうしいだけではなかった。
父親は、暴力で子どもを支配していた。
そういう親に反発し反抗する女の子に、素美は、過去の自分を重ねて見る……
かなり深刻なテーマを扱っているのに、妙にコミカルな小説だった。
この小説が書かれたころにNHK教育で放送されていたドラマ「フルハウス」は、差別・貧困・虐待など深刻な問題をあつかいながらも、抱腹絶倒のホームコメディだった。
作者は、深刻な喜劇を目指したのかもしれない。だから「フルハウス」なんだと思った。
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
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- 出版社:文藝春秋
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- ISBN:B009HO5MN0
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