書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

かもめ通信
レビュアー:
ある日、家でマドレーヌを食べていたら、プルーストの話やマグダラのマリアの話になって、とりとめのない話ながら面白かったなと思っていたら、直後に開いたこの本にちゃんと書いてあった!わかりやすくまとまって!
(また随分挑発的なタイトルだなあ)と思いつつ、すっかりその挑発に乗せられて手にした本書は、光文社古典新訳文庫の編集部と紀伊國屋書店がタッグを組んで取り組んでいる、人気の連続イベントを書籍化したものだそうだ。

献本にハズレてすぐに購入し、当たったつもりで積まずに読み始めたものの、ひととおり読み終えるのに随分時間を要したから、当たらなくてかえって良かったかもしれない。

古典新訳文庫に名を連ねる並み居る翻訳者の中から選び抜かれた14名の翻訳家と古典新訳文庫創刊時から10年間編集長をつとめた敏腕編集者駒井稔氏との対談形式で、新訳を出版する意義やその苦労、作品について、作家について、その文学史上の位置づけについてなどわかりやすく語り明かしている。

ご存じ光文社古典新訳はいま、息をしている言葉でをキャッチフレーズに、2006年9月に創刊された文庫レーベル。
文学作品から哲学書まで、古典と呼ばれる作品を、現代の読者にも読みやすい日本語で新たに翻訳するというのがそのコンセプトだ。

正直に言えば、私は当初、このコンセプトそのものに懐疑的だった。
なぜなら、これまでそれなりの数の作品の翻訳を読み比べてをしてきた経験から、訳文に使われた日本語が古めかしいとか、文章が難解だとかいうのは、必ずしも否定すべきことではないと思っているからだ。

そもそも古典呼ばれる文学なら、原文だって古めかしい言葉で書かれている可能性大だし、文章だって小難しく書かれているかもしれない。
もし原文がすごく古めかしくて、ごつごつした肌触りだったりするならば、私はその肌触りごと味わいたい。
もちろん読みやすくかみ砕いて説明する解説本は、それなりに意味があるし面白いものも多いが、それはまた翻訳とは別の話、別の楽しみではないかと思うのだ。

そんなこともあって、このレーベルが書店に並ぶようになって最初の数年間は、ちょっと斜に構えて、他の翻訳本と数ページ読み比べて上で手にする、あるいは、最初から読み比べるつもりで手にする、ということが多かった。
それが変わったのは、『失われた時を求めて』の読み比べをしたときからだ。
この読み比べて高遠氏の訳に惚れ込んだだけでなく、巻末の「読書ガイド」にも惚れ込んだ。

実のところそれまで、『カラマーゾフの兄弟』に収録された『解題』のトラウマから、このレーベルの「読書ガイド」には警戒心にも似た気持ちを抱いていたのだが、『失われた時を求めて』のそれは、ほれぼれするほどすばらしかった。

そんなこんなで気がつけば、今では光文社古典新訳も書籍選びの有望な選択肢の一つとなっていて、積読山にもKindle沼にも常に何作かが潜んでいる。

そしてまた、今回も最初に登場した『マノン・レスコー』を速攻で買い、「試しにさわりだけ…」のつもりが、結局、本書と並行して読みふけってしまった。
この話、オペラの題材として大まかなストーリーは知っているつもりだったが、読んでみるとあちこちツッコミどころもあり、予想以上に面白かった。
ここからまた『椿姫』と『無邪気と悪魔は紙一重』を積んでしまい……。

Kindle沼の底からは『ヴェネツィアに死す』を引き上げて読み始めた。
もちろん『ソクラテスの弁明』も旧訳と読み比べてみなければなるまい。
その他にも気になる本があれこれ出てきて、読みたい本のリストが思いっきりのびてしまって、なんだかとんでもないことになりつつある。

とまあ、そんなわけなのだけれど、なんといっても、この本の一番の読みどころは、なぜその作家のその作品を選んだのかというところ。
編集部はまず、翻訳家に「なにを訳したいか」と聞く。
翻訳家の方は、思い入れのある作品を、思い入れがあるからこそ先行訳にはいろいろと気になる点がある作品を訳してみたいと答える。
読み応えのある「読書ガイド」に見られる熱さは、そういう作品を手がけているからこそのものなのだろう。
編集部にその思惑が元々あったのかどうかはわからないが、この本はもとより、光文社古典新訳のレーベルそのものが、読者である私にとっては、自分に合った翻訳家と出会う絶好のチャンスになっているようにも思われた。

<関連レビュー>
『失われた時を求めて〈1〉第一篇「スワン家のほうへ1」』
『失われた時を求めて〈2〉第1篇・スワン家のほうへ〈2〉」』
『失われた時を求めて〈3〉第二篇・花咲く乙女たちのかげに〈1〉』
『失われた時を求めて 4 第二篇「花咲く乙女たちのかげにII」』
『すばらしい新世界』
『崩れゆく絆』
『絶望』
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2234 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

読んで楽しい:5票
素晴らしい洞察:1票
参考になる:30票
共感した:1票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. Yasuhiro2020-10-21 13:45

    こんにちは、カラマも失時求もかもめさんの後追いで読んだので面白く読ませていただきました。カラマのレビューを読ませていただきましたが、随分今のかもめさんと文体が違うので違う人のレビューかと思ってしまいました^^;。

    一点だけ、改題じゃなくて解題でしょうね?

  2. かもめ通信2020-10-21 14:08

    Yasuhiroさん,ありがとうございます。
    「解題」でしたね!慌ててなおしました。(^^ゞ

    カラ兄新訳問題には……あの頃,かなり感情移入(?)していましたからねえ…。
    今ではそれも懐かしい思い出です。

  3. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『文学こそ最高の教養である』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ