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Yasuhiroさん
Yasuhiro
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縁結びの神を主人公にした「万人が楽しめるいイイ話」だが、初期「万城目ワールド」のアクの強さがないのは寂しい。
  万城目学の小説で唯一未読だった「パーマネント神喜劇」(2017)が今春文庫化されたので読んでみました。

  「鴨川ホルモー」(2006)「鹿男あおによし」(2007)「プリンセストヨトミ」(2009)「偉大なるしゅららぼん」(2011)などの奇想天外な関西系ファンタジー、いわゆる「万城目ワールド」を展開しファンを獲得したマキメーでしたが、「とっぴんぱらりの風太郎」(2013)「悟浄出立」(2014)あたりでマジメ路線に転換した感を抱かせ、この前の「バベル九朔」(2016)はやや迷走気味だな、とさえ思いました。実際世評もあまり芳しくなかったようです。

  その点本作はオーソドックスな人情系コメディで、解説の津村記久子さんが書いておられるように気楽に万人に勧められるどんな気分の時にも読める作品だと思います。
  逆に言えば万人には勧められないアクの強さが持ち味だった「マキメワールド」ではないわけで、それが好きだったファンには少し物足りない。初期のファンの勝手な言い分ではありますが、万城目氏がこのまま万人受けユーモア路線を続けていかれるのであれば、もう少しパワーアップする必要があるのではないかな、と思います。
  
派手な柄シャツを小太りの体に纏い、下ぶくれの顔に笑みを浮かべた中年男。でもこれは人間に配慮した仮の姿。だって、私は神だから──。千年前から小さな神社を守る恋愛成就の神は、黒縁メガネにスーツ姿の同僚と共にお勤めに励む。昇進の機会を掴むため、珍客がもたらす危機から脱するため、そして人々の悠久なる幸せのため。ちょっとセコくて小心で、とびきり熱い神様が贈る縁結び奮闘記!(文庫版裏表紙)


はじめの一歩」  もともとTVドラマ「世にも奇妙な物語」20周年スペシャルのために書き下された作品で、嵐の大野君主演で放映されました。「ますはじめに」が口癖の堅物な青年とそれが気に入らない彼女。そのことで気まずい雰囲気になったデートの帰り、交差点で突然時間が止まり、小太り・下ぶくれの中年男とサラリーマン風黒ぶち眼鏡の男が現れ。。。この小太りの男が「縁結びの神様」で彼にアドバイスをしますが、この怪しげな二人を信用していいものかどうか。。。
  可もなく不可もなくといったところですが、オープナーとしては無難なハッピーエンドの作品。

当たり屋」  前回の件で出世して移動することになった縁結びの神のもとへ女性の神様が訪れます。後任の神様だと勘違いしたところから始まる大騒動はマキメー独特の語り口でとても面白いのですが、当たり屋の男の話はどうも説教臭くてマキメーらしくないな、と思いました。まあ短編でハッピーエンドで終わらせるにはやむを得ないところではありますが。

トシ&シュン」 「杜子春」というお手本があるからね~、という意地悪な見方もできますが、この話が一番よくできていました。
  学問芸能成就の神社へヘルプに来た縁結びの神が担当することになったのは、小説家になりたい俊と女優になりたい瞬、結婚してしまえばどちらも「サイトウシュン」になってしまうカップル。どちらもあと一歩というところが詰められずに諦めようと思っている。縁結びの神はそれぞれにアドバイスを送って念願成就の夢をみさせる。
  でもどちらも成功してしまえば、二人は多忙過ぎて結婚できなくなるのでは?そこで縁結びの神が下した決断は? 起承転結、オチのひねり方などきっちりしており、よくできた作品だと思います。二人の出会いが「バベル九朔」ビル1Fの「レコ一」というのもクスッと笑えます。

パーマネント神喜劇」 出世して異動した大神社が大震災で瓦解、縁結びの神は神木の中に閉じ込められてしまいます。黒ぶちサラリーマン風の神は必死に知恵を働かせ。。。
  神と人間世界をシンクロさせて大震災直後の世界を上手く描いています。「イイ話」でほろりとさせてくれますが、ファンにはそれより脇役の「かのこちゃん」が気になったりして。

  この作品を最後に万城目氏は新作を発表しておられません。モリミー(森見登美彦)が「四畳半」路線を復活させたように、氏もマキメーワールドを復活させてほしいですね。
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Yasuhiro
Yasuhiro さん本が好き!1級(書評数:513 件)

馬鹿馬鹿しくなったので退会しました。2021/10/8

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