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Wings to fly
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元教師と殺人罪に問われた教え子は、拘置所で向かい合い本を読む。人間が本によって救われてゆく過程を感動的に描いたノンフィクション。
アメリカには、一流大学の卒業生を(教員免許の有無は問わず)教育困難地域に派遣するNPOがある。著者が「ロースクールへ行く前にミシシッピ・デルタでボランティア教師をする」告げた時、「学位をどぶに捨てる気か?」と父は怒り、「あなた、殺されに行くのよ。」と母は取り乱した。

著者は移民二世の台湾系アメリカ人女性で、公民権運動の活動家たちを尊敬している。その本拠地の子どもたちに、学びを通じて誇りを持ってほしいと夢を抱いて派遣された先は、極貧地域の最底辺校だ。悲惨なまでの学力不足、無断欠席や喧嘩、蔓延するドラッグと苦闘を繰り広げた末に、著者は教え子たちの信頼を勝ち取ってゆく。黒人作家のYA小説群は彼らの心を捉え、読書家や作文愛好者が増えていった。中でも文才を花開かせたパトリック少年は、喜ばしい衝撃だった。

だが、ロースクール進学のため町を離れた数年後、著者とパトリックが再開したのは拘置所の面会室。妹を守ろうとしてドラッグ中毒の男を殺してしまったのだ。読み書きもおぼつかなくなったパトリックの姿に胸を痛めた著者は、就職をお預けにしてかつての町へ戻り、定期的に拘置所へ通い始める。そして、ふたりだけの読書会が始まる。

本書は、書物が人にどういう影響を与え、人間は読書によって何を得るのかを克明に描いた記録である。理想と現実の狭間で苦しむ新米教師の下で変わってゆく生徒たちを描く前半も、罪悪感に押しつぶされる青年が徐々に変化してゆく後半も、教え子にとっては本当の自分を見いだす旅であり、著者にとっては生徒の人間性への理解が生まれる旅となった。

向かい合い本を読むことで生まれた「パワー」としか言えない何かは、導き手の力量あってこそのものだ。そして、本と人の心が反応し、何かが生まれる様が圧倒的筆力で描き出される。

なぜミシシッピ・デルタ地帯が極貧から抜け出せないのか、住人たちはなぜその土地から抜け出せないのか。著者は南北戦争以前から現在に至るまでの、あまりにも不平等な社会の仕組みと、それを放置してきた米国の歴史を巧みに織り交ぜて語る。今のアメリカを理解するための良書であると同時に、胸が締め付けられるような感動を呼び起こす「めったに出会えない本」の一冊である。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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