レビュアー:
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これだなあ、と思いながら読む。うまくいかない男女の機微を、絶品の文章で。
表紙が違うが、同じ角川の文庫なので、収録作が同じではないかと思いつつ。私の読んだのは絶版です。おそらく。
図書館が開いたのでさっそく借りてきた。実はNHK朝ドラに川端が書き下ろした同名の作品と思いこんでいて、短篇集、というのにびっくりし、収録の短篇とドラマとはまったく別作品ということを知った。
長くとも20ページほどの話が10篇収録されている、著者自選、昭和30年出版。さまざまな設定で、いずれもうまくいかない男女の機微をモチーフとしている。最初の予想は外れたが、この本は馥郁として実に心になじんだ。
再婚した夫とは、どこか噛み合わない京子。死んだ前の夫は病気で寝たきりとなり、京子は鏡台の鏡を外して、夫に外の風景を見せていた。畑仕事をする京子を鏡の中で見ていた前夫。高原での療養中、鏡を間に置いた前夫との儚い日々を想い出す京子。ある日妊娠が分かるー。(水月)
冒頭のこの作品は鏡という妖しさ、奥深さのある小道具を上手に使って彩りのある過去の世界を作り上げている。
ラストの表題作、「たまゆら」も勾玉が触れ合って発する微かな音を中心に置いている。川端の短編ではある物、ことを支点に展開する話はよくあるが、殊に冴えが感じられた。
その話の作り方と同時に、今回色の対比の文章に目が止まる。
「私は箱根で萩を見ても、堀端の夜の薄赤い萩とほの白い月子の手を、さっそく思い出すにきまっている。」(明月)
「川岸の柚子の葉の色濃いそばに柿の若葉が明るかった。」(故郷)
「オレンジ色の空が火山灰でも降るように垂れていた。その空の裾には紫色がにじんでいた。町の電燈だけが生き生きとしていた。」(小春日)
柿の若葉、はわずか数日の間。山の新緑が落ち着く頃、黄緑の葉が一斉に繁り、すぐに深緑となる。そして黄色の花が咲く。
物語進行の間に風景描写が挟まるのはふつうのこと。ワトスン君もホームズ物語の中で何度も印象的な描写をしている。今作では、短篇といういわば行きずりに触れる形式の、微妙な物語の中ですっきりとした印象や幽玄さを漂わせるメッセージをこちらに放つ。色、は空想の強い構成要素で、今回さりげなくもより鮮やかに思えた。
まあやっぱ図書館行けなかったのはストレスの一つで、ここのところごてごてしたミステリーや軽い随筆が多かったこともあって懐かしい気持ちすら湧く。よく練られてかつ感性をくすぐる小説たちに再会し、頭と心が潤った思い。これこれ、この感覚だよ〜と嬉しくなった。
図書館が開いたのでさっそく借りてきた。実はNHK朝ドラに川端が書き下ろした同名の作品と思いこんでいて、短篇集、というのにびっくりし、収録の短篇とドラマとはまったく別作品ということを知った。
長くとも20ページほどの話が10篇収録されている、著者自選、昭和30年出版。さまざまな設定で、いずれもうまくいかない男女の機微をモチーフとしている。最初の予想は外れたが、この本は馥郁として実に心になじんだ。
再婚した夫とは、どこか噛み合わない京子。死んだ前の夫は病気で寝たきりとなり、京子は鏡台の鏡を外して、夫に外の風景を見せていた。畑仕事をする京子を鏡の中で見ていた前夫。高原での療養中、鏡を間に置いた前夫との儚い日々を想い出す京子。ある日妊娠が分かるー。(水月)
冒頭のこの作品は鏡という妖しさ、奥深さのある小道具を上手に使って彩りのある過去の世界を作り上げている。
ラストの表題作、「たまゆら」も勾玉が触れ合って発する微かな音を中心に置いている。川端の短編ではある物、ことを支点に展開する話はよくあるが、殊に冴えが感じられた。
その話の作り方と同時に、今回色の対比の文章に目が止まる。
「私は箱根で萩を見ても、堀端の夜の薄赤い萩とほの白い月子の手を、さっそく思い出すにきまっている。」(明月)
「川岸の柚子の葉の色濃いそばに柿の若葉が明るかった。」(故郷)
「オレンジ色の空が火山灰でも降るように垂れていた。その空の裾には紫色がにじんでいた。町の電燈だけが生き生きとしていた。」(小春日)
柿の若葉、はわずか数日の間。山の新緑が落ち着く頃、黄緑の葉が一斉に繁り、すぐに深緑となる。そして黄色の花が咲く。
物語進行の間に風景描写が挟まるのはふつうのこと。ワトスン君もホームズ物語の中で何度も印象的な描写をしている。今作では、短篇といういわば行きずりに触れる形式の、微妙な物語の中ですっきりとした印象や幽玄さを漂わせるメッセージをこちらに放つ。色、は空想の強い構成要素で、今回さりげなくもより鮮やかに思えた。
まあやっぱ図書館行けなかったのはストレスの一つで、ここのところごてごてしたミステリーや軽い随筆が多かったこともあって懐かしい気持ちすら湧く。よく練られてかつ感性をくすぐる小説たちに再会し、頭と心が潤った思い。これこれ、この感覚だよ〜と嬉しくなった。
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読む本の傾向は、女子系だと言われたことがあります。シャーロッキアン、アヤツジスト、北村カオリスタ。シェイクスピア、川端康成、宮沢賢治に最近ちょっと泉鏡花。アート、クラシック、ミステリ、宇宙もの、神代・飛鳥奈良万葉・平安ときて源氏物語、スポーツもの、ちょいホラーを読みます。海外の名作をもう少し読むこと。いまの密かな目標です。
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- ISBN:B000JB4GIC
- 発売日:2020年06月04日
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