かもめ通信さん
レビュアー:
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いやはやこれは面白かった。もう少しお値段が手頃だとなお嬉しいが,論文集だと発行部数も少ないだろうし,値段を下げるのはなかなか難しいのだろうなあ。
世界文学と日本近代文学との具体的な関係の緻密な分析を通して、世界文学論が掘り起こす問題系に応える。世界史・世界文化と密接な関係性をもつ世界文学からの、日本近代文学による摂取の複雑な過程が解きほぐされる。
難しそうだなあと思いながらも、好奇心にかられて読み始めた論文集。
世界文学の中の漱石や谷崎、という視点が興味深く、ところどころわからないながらもぐいぐいと読み進められる。
読みながらとったメモの中からいくつか拾って紹介してみると…
実を言うとこれまで、漱石の作品に英単語や英文がそのまま出てくるたびに、漱石ってホント、インテリぶって気取っているよなあ!などと思っていたのだけれど、そうか、漱石は翻訳についてそんな風に考えていたのか……。
これはちょっと読み直さないといけないかも。
(「漱石の(反)世界文学と(反)翻訳」:マイケル・ボーダッシュ)
ラファエロ、ターナーまでは想定内として、まさかゴーリキーまでつながっているとは!再読したら『坊っちゃん』のイメージが変わるかも!?
(「『坊っちゃん』の世界史」:小森陽一)
うーむ。スティーブン・ドッド氏の担当章はどれもかなり難解。
私が“モダニズム”を解していないからかもしれないが。
それにしても「変身」のザムザの部屋がもつ空間的特徴、「夢みる部屋」の主人公が家族に内緒でこっそり借りる部屋があらわすもの。
「部屋」という空間には、そんな深い意味がこめられていたの!?本当に!?
「変身」、もう一度読んでみるかな……。
(「フランツ・カフカの「変身」と
宇野浩二「夢みる部屋」というモダニストの部屋」
:スティーブン・ドッド/訳=田中・アトキンス・緑)
文学の中で,女の手紙が候文から口語文へと移っていく過程は面白い。文中にはないが私まっさきに思い浮かべたのは,田山花袋の『蒲団』だなあ。
それにしても森田草平が『新文学辞典』で「新しい女」について執筆しているとは!しかもその内容ときたら!ここ笑いのポイントなのか?そうなのか??
(「世界文学の文体チューニング」:谷川恵一)
(参考レビュー 「新しい女」の到来―平塚らいてうと漱石)
とりわけ面白かったのはソフィア大学のダリン・テネフ氏の書かれたもの。
「猫との会話と文学の可能態」なんと“文学ネコ”研究だ!
物言う猫と沈黙を守る猫、語る猫と無口な猫。
19世紀初頭以来、文学作品の中で増加した話す猫。
彼らの多くは雄でおしなべて大変聡明で雄弁!?
いやー面白い、ここからはじまる一連の考察。
紹介されている猫に片っ端から会いに行きたくなってきてしまったではないか!
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
この書評へのコメント
- かもめ通信2020-12-21 09:35
そうなんですよ。
それで勢い余ってこんな遊びを始めてしまったのです。↓
https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no396/index.html?latest=20
ちなみに集まった200レビューを集計したところ,
犬45・猫36・馬19・熊11……と,
現時点では「文学ネコ」を「文学イヌ」が大きく(?)上回っています!?wクリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
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