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星落秋風五丈原
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「ゆこう」「ゆこう」の日常
作家・島崎藤村が、いかにも考え深そうな口調で、「石というものは重いものですね。」と言ったそうだ。しかし、それに相手がどう応えたかは、書かれていない。
「当たり前の事を、何を言いだすんだ、この人?」と戸惑ったか。
或いは、
「いや、これは何かの前フリで、これから本当の話が始まるのかもしれない。」と、じいっと藤村を見つめ続けたか。いずれにしろ、相手はとっても、返答に困ったのではないだろうか。
だがこの人ならば、顔を作ることなく「そうですねえ。」と言い、優雅な会話を続けていけたかもしれない。心から、そう思っている。そんな返事ができる人だから。
この人とは、源博雅。陰陽師・安倍晴明の無二の友である。

 彼は、陰謀家・策謀家には、おおよそ向いてない。
その代わり、出世や陰謀に熱心な人達が見過ごしている季節の移り変わり、自然の美しさを愛でる心にかけては、誰もかなわないものを持っている。そして、そんな自分の能力に、ちっとも気づいていないので、相変わらず謙虚だ。
「え、また呪(しゅ)の話か。もう、勘弁してくれよ。」
とあからさまに嫌がる博雅。晴明が了解して別の話を始めるのでまた聞き始めるが、結局呪の話だった事がわかり、騙されたような気がして釈然としない博雅。または、何とか説き伏せられて呪の話を聞くが、やっぱりややこしくてわからん、という表情を浮かべる博雅。
言葉で言われると何か難しく聞こえて、こんがらがってしまうが、実は博雅は、呪の本質はちゃあんとわかっている。その事は先刻承知のくせにやってしまう晴明って、本当に食えない漢(おとこ)。まあ、ついからかいたくなってしまう晴明の気持ちも、わからなくはない。

 本篇収録の6作のうち5作が呪をめぐる話を枕として始まっており、これらは、もうお約束といっていい。何だか聞いていると夫婦漫才みたいで、博雅には悪いが、笑ってしまう。

 「ゆこう」「ゆこう」に露子姫の「まいりましょう」が加わっても、晴明とは別の意味で食えない陰陽師・蘆屋道満が
「これはわしの仕事だ。あがりを半分よこせ。」とやって来ようと、
妖怪・魑魅魍魎が襲ってきても、人間のあざとさ、哀しさを目のあたりにしても、彼等は、最後は縁側に戻ってきて、自然を愛で、語りあい、酒を飲む。そんな縁側での平和が、ずっと、ずっと、続けばいい。心から、そう思う。

シリーズ第5弾。
「二百六十二匹の黄金虫」「鬼小槌」「棗坊主」「東国より上る人、鬼にあうこと」
「覚」「針魔童子」収録。夢枕獏全作品リストつき。


夢枕獏作品
シナン
大江戸釣客伝
陰陽師シリーズ
陰陽師 蒼猴ノ巻
陰陽師 酔月ノ巻
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2327 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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