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紅い芥子粒
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荒唐無稽、しかし妖艶な美の世界に酔いしれてしまう。
承平七年(936)。
藤原純友の子・九郎が、船で西国から東国に向かう場面から、物語は始まる。
純友は西海の海賊だから、大きな軍船だ。
船を宰領するのは、九郎の叔父。水手が二十人、従者が四人。
十二歳の九郎は、元服をすませたばかりだった。
九郎に従う15歳の美丈丸。
そして、船の舳先には、持齋(じさい)の千代童。

東国に着いた九郎は、将門の娘・夜叉姫の婿となる。
夜叉姫には、如月尼という姉がいた。如月尼は、おさない弟を盾にして戦を生きのびたという深い罪の記憶に苦しめられている。

こう書いてくると、九郎を軸とする歴史物語のようだが、さにあらず。
九郎、美丈丸、千代童、夜叉姫、如月尼。この五人の少年少女に、巻之二からは安倍童子(のちの安倍晴明)が加わって、妖艶な群像劇になっていくのだ。

持齋(じさい)の千代童は、興世王に引き取られ、七瀬の滝に打たれる荒行を経て、都に伴われ、蘆屋道摩と名のる陰陽師となる。
将門討伐の呪詛を行ったり、陰陽寮のエリート陰陽師・安倍童子と呪詛合戦を行ったり……

九郎と美丈丸、九郎と夜叉姫、如月尼と九郎、千代童と如月尼、そして、美丈丸と夜叉姫、千代童と美丈丸、蘆屋道摩と安倍童子。
作者は、血なまぐさい戦や、おどろおどろしい呪詛の合間に、ジェンダーを超えた幾組もの「愛」の花を咲かせて、読者をしびれさせる。

天慶四年に藤原純友が滅びるまで、戦と呪詛に明け暮れた五年間の物語。
最後の場面は、燃え盛る内裏の屋根から屋根へと飛び移る、美丈丸と夜叉姫の二つの影。それを離れて見守る九郎。都の空に響き渡る瀧夜叉(千代童と如月尼)の哄笑。そして、幕。

生霊を過去に飛ばして人を救ったり、老婆に乗り移って絶世の美女に変身させたり……
そんなことあるわけないでしょと、読みながら何回思ったことか。
歌舞伎の演目を下敷きにしているとはいえ、荒唐無稽な話なのだ。
それでも酔ってしまう、妖艶な美の世界に。

皆川博子という作家は、蘆屋道摩や安倍晴明をしのぐ妖術つかいかもしれない……
なんて、思う。

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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:560 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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