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休蔵さん
休蔵
レビュアー:
新しい生活様式は、時代の移り変わりとともに誰もが経験してきたこと。全国の鍛冶屋さんを示した本書からそんなことを考えてみた。
 生活が便利になるにつれ、喪失してきたものがある。
 道具も大きく変わり、工業品を購入して使用することが当たり前になった。
 高度経済成長へとシフトチェンジするまでは、そのような傾向になかったのではないか。
 それまでの道具は身体の延長で、個々人に相応しいものが求められた。
 そのため、個々の注文に応じる生産者が存在した。
 鍛冶屋はその典型だ。
 本書は野外生活や民俗学をテーマに絵と文による執筆活動を続けるという遠藤ケイによる、全国の鍛冶屋列伝である。
 それも、ただの紹介ではない。
 俄かに弟子入りして実地の体験も盛り込んだ鍛冶技術の専門書とも言えるものだ。

 本書は3部構成である。
 まず、道具別に鍛冶屋を紹介する。
 それも相当に細かい。
 ナイフ類だと、ナイフと名に付くものだけでも4人、包丁2人、小刀1人、肥後守1人の鍛冶屋が登場する。
 それぞれ、詳細には異なる技術が導入されているのだ。
 
 第2部には自らを鍛冶屋とするストーリーが描かれる。
 最初は鞴、そして火床と続く。
 ほどと読む火床は鍛冶炉のこと。
 なんと著者は自らの鍛冶炉を入手したのだ。
 送風装置である鞴は、操業への第一歩。
 そして、実際の鍛冶活動を示す。

 第3部はさらなる道具とともに鍛冶炭と研ぎ、野だたら、そして古代たたらを綴る。
 鍛冶炭は、鍛冶操業を進めるうえで必要不可欠なもの。
 端から見ているとついつい軽視しがちであるが、鍛冶活動も行う著者ならではのキメの細かさだ。
 そして、素材となる鉄作りについても余念がない。

 本書は鍛冶屋列伝ではあるが、その実、鍛冶を進めるうえで必要な技術を網羅的に取り扱っている。
 文章だけではなく、イラストでも紹介しているところが嬉しい。
 しかし、ちくま文庫の限界か、当初フルカラーで『ナイフマガジン』誌に連載されたであろうイラストは、モノクロになってしまった。
 文庫サイズも小さすぎる。
 文庫より大きく、フルカラー版がよかったが、それは我儘すぎるだろうか・・・

 昭和、平成そして令和と元号は移り変わってきた。
 生活スタイルも大きく変わってしまい、自分に合った道具を求めることは、ない。
 テレビや雑誌、そしてネットに登場するものを、身に合わせることなく購入してしまう。
 店舗販売のものの、そのものが持つ尺に自らを合わせて使用する。
 当たり前が当たり前ではなくなることは、新型コロナの流行で世界中が強要されてしまったが、道具の点から考えてみるとまったく初めての経験ではなかったようだ。
 新しい行動様式の是非はともかく、時代の移り変わりとともに生活スタイルが変わることは当たり前のこと。
 新型コロナの場合、拙速すぎて混乱してしまったが、やがて慣れてくるのではないか。
 そんな儚いことを期待したい。
 
 
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:451 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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