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かもめ通信
レビュアー:
重力も摩擦力も存在しない条件下で転がした球は永遠に転がり続けるのだという。私たちはラッキーだ。進んでも止まれるし、止まってもまた進み出せるのだから。でも、それって本当に?
近年次々に翻訳刊行されている韓国現代文学。
これまで手にした本がどれもとても面白かったので、
新刊情報を目にするたびに、
あれもこれも読みたくてたまらなくなってしまうのだが、
財布の中身をはじめいろんな意味で出版ペースに追いつかず、
次はいったいどれを読んだら良いのやらと途方に暮れてしまう。

この本にしよう!と決めたのは、誰かがどこかで
『フィフティ・ピープル』が好きな人はこの本も好きになるのでは…
とつぶやいていたのを目にしたからだ。
以前読んだ『ヒョンナムオッパへ:韓国フェミニズム小説集』に収録されていた
同じ作者の「あなたに平和」がよかったからでもある。

収録されているのは
「あの夏」「六〇一、六〇二」「過ぎゆく夜」
「砂の家」「告白」「差しのべる手」「アーチディにて」の7篇。

著者曰く、7つの物語には
未成年の私が通り過ぎてきた時間が染み込んでいるとのこと。

誰もが通り過ぎてきて
誰もが覚えていることが出来るわけではない
子どもだけが感じることのできる孤独、限りない悲しみや心細さが。


すっかり疎遠になってしまった姉妹を結びつける
母の帰りを待ちわびた幼い日の記憶(「過ぎゆく夜」)

重力も摩擦力も存在しない条件下で転がした球は永遠に転がり続ける。
私たちはラッキーだ。進んでも止まれるし、止まってもまた進み出せる。
(「砂の家」)

胸が痛くなると楽になる部分があった。だからそうしてたの。
二人のどちらかでも相手を愛していたら感づく以外ないだろうと
当時の俺は思っていた。
二人のあいだにはいかなる緊張も、ときめきも、失望も、挫折も、
排他的な所有への渇望も存在しなかったから。
彼女を愛していたらあんなふうには眠れなかったはずだ。
俺は長いあいだそう思っていた。

(「アーチディにて」)


7つの物語に描かれているのは、
恋人、親子、姉妹、友人……
あらがうことが出来ないほど惹きつけられる出会いもあれば、
断ち切ることが出来ない縁もある。


どうしようもないさびしさに包まれた時に
頭に浮かぶのはなぜか、忘れてしまいたいことだったり

ずっと忘れてしまいたいと思っていたことが
本当はどうしても忘れたくないことだったのだと気づいたり。

物語たちは、読み手がすっかり忘れていたあれこれや
忘れたふりをして生きてきたあれこれを
ひりひりとした痛みとともに鮮やかによみがえらせる。

ああそうか、これは
傷ついた私の物語であると同時に
私が傷つけた誰かの物語でもあったのだ。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2235 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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