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ぱせりさん
ぱせり
レビュアー:
1人の女性の人生の物語だけれど
1人の女性の生涯の物語だけれど……
19世紀末に、貧困家庭に生まれたオルガは、早くに両親を亡くし、ドイツ北部の農村で、愛情のない祖母のもとで育てられる。社会的には二つの戦争があり、最愛の恋人を始めとして愛する人を次々に奪われ続けた。
波乱万丈の人生、といいたいが、彼女は、いつも見送る人であり、待つ人でいつづけるしかなかったのだ、と思う。彼女が動くことを余儀なくされるのは、待つためでもあったと思う。
忍耐強く聡明で、愛情深い人。頑固なくらいにゆるぎない人でもあったと思うが。


物語は三部に分かれている。
第一部と第二部には、彼女の人生の前半と後半が描かれる。
第一部は三人称視点で、オルガと幼馴染の恋人ヘルベルトとの日々を描く。
第二部の語り手はフェルディナント。オルガは、裁縫師として、彼の家に出入りしていた。忙しい母の代わりに幼かった彼のそばにいた大切な人がオルガだった。


20世紀は激動の世紀だった。だけど、ドイツでそのとき何が起きていたのかは、あっさりとしか書かれていない。読者は、オルガの大切な人たちが、そのとき、どういう立ち位置にあったか、どういう行為をしたか、ということを通してしか、知らされない。
だけど、「大きすぎる夢」を追い求める彼(ら)は、ドイツそのものだ。歴史的な事実を描くよりも、その人となりを描き出すことで、よりくっきりとイメージできるものもあると思った。
オルガは、「大きすぎる夢」を見ることを拒んだ。でも、「大きすぎる夢」を見る男をそのまま受け入れたのだ。
なぜオルガにとって、彼だったのか。あまりに歩き方がちがっているし、価値をおくものもちがっているし。それでも、わかち難い半身でいられるのだろうか。男たちが時のドイツそのものであるなら、オルガは何なのだろうか。


第三部は、後に発見されたオルガから恋人への手紙である。彼の元に届かず局留めになっていた三十通もの手紙が、時系列に添って掲載されている。第一部と第二部の物語を、オルガ自身の言葉で書き直し、さらっていくようだ。これが事実と思っていたことが、覆されていく……。目が覚めるようだ。わたしは、人が恐いような気持ちになる。
……この静けさは何なのだろう。ここはどこなのだろう。

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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1742 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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この書評へのコメント

  1. ef2025-01-10 04:20

    ベルハルト・シュリンク、重いよねという印象がつきまといます。最初に読んだのは『朗読者』いや、重くて辛くて、でも良い作品でした。

    ベルハルト・シュリンクは法律家ですよね。私も、実はそうです。でしたというべきなのかな(退職したから)。
    だからこその記述も分かるのですが、だからこそ『重く』感じてしまうのかもしれません。

    ベルハルト・シュリンクを読むには、私にはちょっと覚悟が必要で、だってなんて重くて厳しいことを書かれてしまうのか、という。

    この文字制限では書ききれないので、ごめんね、続きます。

  2. ef2025-01-10 04:22

    私、法律の仕事で、世界各地に派遣されたことがあって、そこで、ドイツの弁護士(あちらの法制はイマイチ分かってないので、でも政府代表として来ているデレゲーションの一員なので変な人ではないと思う)が、言った言葉が重かった。

    国際条約の審議をしていたのですが、『国民』という言葉にドイツ代表はこだわったのですよ。
    なんで? って、プライベートな食事の時に聞いたら、それはナチスからつながるとっても重い、ドイツの法律に対する思いがあるということを知りました。

    そうか、そうなのか。と、思いました。
    いや、分かるよ。
    ドイツは、今でも傷を引きずっている。

  3. ぱせり2025-01-10 08:29

    efさん、そうだったのですか。
    efさんの「重いよね」に、軽々しく「そうなんだよね」とは、とても言えないのですが、この作家に対しての、efさんの覚悟(今は読まない、ということも含めて)が、何よりの作者・作品への理解、共感のように感じます。
    この作品を読んで、私が怖く感じたのは、たぶん簡単に、ほいほい共感なんかするなよ、という鋭いメッセージに出くわしたからかもしれないのです。
    ドイツの法律の専門家がこだわる「国民」という言葉、ドイツが引きずっている傷……その深さを実感できないと、ベルンハルト・シュリンク、読んだとはいえないかもしれないですね。

  4. No Image

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