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efさん
ef
レビュアー:
これはオースターなのか? と思うようなディストピアものだったのだ!
 本作は、主人公のアンナが、ある町に派遣された新聞記者である兄の行方を追ってその町にやって来るという物語なのですが、この町が行政が完全に崩壊したディストピアなのです。
 え? これオースターだよね? と、ちょっと戸惑う。SFと言っても良い設定。

 町に住む人々は住居も、満足な食糧もなかなか得ることができず、まともな仕事もありません。自殺する者も数多くおり、町中に死体が転がっているのですが、その死体すら勝手に埋葬することはできず、『変身センター』と呼ばれる火葬場のようなところへ持って行き、そこで死体からメタンガスなどのエネルギーを採取しているのです。

 アンナの兄はまったく音信不通になっており、既に亡くなっているとも思われているのですが、アンナは兄が死んだという確証が無い以上望みはあると考え、安全だった故郷を離れ、この町で生きていこうとします。
 とは言え、できる仕事と言ったらゴミ拾い位のものです。最初はゴミ拾いのやり方だって分からず、痛い経験をしながら学んでいくのです。住居にしても基本的には野宿するしかないのです(いや、屋内に住んでいる者であっても突然暴力的に追い出されることはしばしばです)。
 普通のお嬢さんだったアンナには耐えられないようなことでありましょう。もうこんな町は出て行って元いた故郷に帰れば良いだろうとも思うのですが、それすらできなくなるのです(戦争が近いということで町は封鎖されており、交通機関も動いていないようです)。
 一部の金持ちだけは贅沢に暮らしているようですが、それも真っ当な事をして金を稼いでいるとも思えません。

 アンナは、このとんでもない町で生き抜いていくのです。アリジゴクにはまってしまったかのように。それでも兄の消息を追って。その過程では人が死に、その人の死だって日常に転化させられてしまうような事を経験しながら。

 こういうディストピアものって、多くは絶対専制主義のもと、監視されたり抑圧された世界が描かれるということが多いように思うのですが、本作ではそれともちょっと違っていて、行政が完全に崩壊している無政府状態のような世界が描かれるのです。
 それなのにおかしな所だけは機能しているようなんですよね。

 アンナはようやく手に入れたノートと鉛筆を使ってこの長い長い『手紙』を書いているのですが、誰に宛てて書いているのかは謎なのです。アンナはこの町の暮らしを書き綴り、また、名宛人に謝罪しているようなのですが……。

 ポール・オースターがここまでのディストピアものを書いているとは知りませんでした。ちょっと意外でもありました。
 普段のオースターとはちょっと毛色の違う作品ではないかと思います。
 興味を持たれた方はご一読を。


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ef
ef さん本が好き!1級(書評数:4921 件)

幻想文学、SF、ミステリ、アート系などの怪しいモノ大好きです。ご紹介レビューが基本ですが、私のレビューで読んでみようかなと思って頂けたらうれしいです。世界中にはまだ読んでいない沢山の良い本がある!

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