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ぽんきち
レビュアー:
介護に仕事に忙しくしているところに、自分ががんになってしまったら?
認知症の母の介護をしつつ、作家活動にも勤しんでいた著者に、あるとき、乳がんが見つかる。
満身創痍、四面楚歌、絶体絶命。
だが作家は落ち込んだり、悲観したりはしない。きわめて冷静に、腹を据えて客観的に判断し、しかし時には羽目を外し、いくぶんかのユーモアを道連れに、事態を乗り切っていく。
介護部分よりはがん部分の方が主体である。が、闘病記と呼ぶほど辛気臭くはない。闘病エッセイとでも呼べばよいのか。
ところどころで笑わせつつ、治療に一区切りがつくまできっちりまとめ、巻末には形成外科医との対談も収録。
リーダビリティ高く、乳がん治療の一例も知ることができて参考にもなる。

著者は長年、認知症の実母の介護をしてきた。その母が施設に入ることになり、少々手が空いたところで受けた検査で黄色信号。
さてそこからの精密検査、がんの判定、入院先の選定、全摘・温存・再建の判断である。あれやこれやとリサーチし、1つ1つを決めていく。
著者、62歳。還暦を越えて再建でもないだろうと一度は思うが、趣味のスイミングのためにやはり再建すると決める。再建の場合は、その後に備える処置が必要であるため、いずれにしても摘出前に決定しておかなければならないのである。

そんなこんなの日々の間に母のところに見舞いにもいかねばならない。認知症の母はなかなかに気難しい。手伝ってもらう風を装い、手仕事をさせて落ち着かせたり、半ば騙すように入浴や着替えをさせたり、試行錯誤だ。
著者のがんが判明する前に入った施設は長期滞在型ではないうえ、他の利用者とのトラブルもあり、転所を余儀なくされる。
転所先を選ぶにも、何はおいてもリサーチが必要である。どこにどのような施設があるのか。見学させてもらい、話を聞く。雰囲気のよさそうな施設であっても、母が気に入るかどうかはまた別問題というのが難しい。

圧巻は「娘のいちばん長い日」の副題がついた章。
ようやく母も落ち着けそうなグループホームが見つかり、引っ越しの日も決まる。
一方で、著者は大きな賞の受賞が決まったとの知らせを受ける。そこまではよかったのだが、その授賞式がなんと母の引っ越しの日と重なっている。
むずかる母をなだめて、無事に引っ越しを終え、授賞式に出席することはできるのか!?
華やかな式の舞台裏がまさかこんなに綱渡りとは。

それにしても、乳がんというのはずいぶんと身近な病気になっているのだなと思う。
著者の場合はとりあえず経過も比較的よさそうで何よりだが、もちろん、亡くなることもある病気であるし、特に若い患者さんには容姿が変わる辛さも大きいだろう。
一人ひとり経過も違えば、受け止め方も異なる。けれども、確実に症例は積み重ねられ、治療法は改善されつつあるのだと思う。

著者の作品は時々拝読しているのだが、作品の印象よりもずっとざっくばらんというかさばさばしたお人柄のようだ。作品と作者は別物とはいえ、少々意外だった。
しかし、作品の奥にこの腹を括った冷静な目があるのか、というのは、ちょっとわかる気もする。
本書は本書でおもしろかったのだが、次に読むときはやはり小説を読みたい。本書でも触れられていた受賞作あたりがよいだろうか。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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