で、これからもよろしく、と言いたいところなんですが、先日からいろいろと思うところがあり、とりあえず筆をおくことにしました。勿論本当にたくさんの事情があるのですが、一番大きい理由としては、本当に口はばったくて申し訳ないのですが、
「私が身を引けば、少なくとも二つ三つの週間書評ランキング枠が空くだろう」
ということです。幸いにしてこの一年で多くの皆さんと交流ができ、それにつれて投票数も増え、最近では週二、三冊しかアップしないのに、そのほとんど全てがランクインするという、ある意味異常事態が続いています。本当にありがたいことではあるのですが、結構ひっかかっているのが、先日騒ぎを起こしてバンされた「りゅうちゃん」の言葉です。
「ここのランキングなんて人気投票じゃないか、本当に優れた書評がランキングに載って来ない!」
無茶苦茶な人ではありましたが、これは鋭い指摘だな、多くの人が内心そう思ってるんだろうな、と思いました。それがずっとひっかかっていて、例えば自分の中でもこう書けば、こういうキャッチをつければ上に行くんじゃないか、という邪な考えが今までなかったか、と問えば、あったとしか言いようがありません。
そしてこんな素晴らしい書評が20票も取れずにランキングに載って来ないのはおかしい、と私もりゅうちゃんと同じような目で最近は書評とランキングを見比べています。そういう意味では、これはもうクロスファイアを承知で問題提起させていただきますが、一つの企画でランキングの半数以上を占拠しているというのも、人気投票に近いんじゃないか、と思ったりもします。
立つ鳥後を汚すような発言をして申し訳ありませんが、とにもかくにも私がいなくなれば、これまでランキングに届きそうで届かなかった方の2,3人は載るようになると思います。そんな多様性のある優れた書評ランキングが「本が好き!」を活気づかせることができるなら、私が身を退く意義もあると思います。
そしてまたいつの日か、一兵卒で一から始められる時が来たら戻ってくるかもしれません。
さて戻ってこれるかどうか、というところで終わる小説が「最後の物たちの国で」。ポール・オースター狂としては最後にこのレビューを持って来たく思っていました。彼の初期の傑作で、ちょうど「ニューヨーク三部作」と「ムーン・パレス」という大傑作の間に挟まれているために、母国アメリカではあまり人気がなく、不思議なことに日本ではとても人気のある作品です。
先日北山みやさんのレビューにもコメントさせていただいたのですが、これにはその後彼の作品を一手に引き受けることになる柴田元幸先生の名訳が大きく寄与していると思います。
オースター自身もこの作品を大事に思っており、これが日本で愛されていることはとても嬉しい、と語っています。主人公アンナ・ブルームは、柴田先生のあとがきにもありますが、この作品が初出ではあるものの随分以前からオースターの脳内には存在し,ようやく日の目を見させてあげたのがこの作品だったそうです。彼がどれほどアンナ・ブルームを愛していたかは「写字室の旅」という作品をお読みいただければ、一目瞭然です。
さて、詳細については北山さんが素晴らしいレビューを書いておられるので是非そちらをご覧ください。
私が語ることがあるとすれば、ただ一点。この作品についてパソ通の掲示板時代から侃々諤々の議論があったところ、つまり
「最後の物(last things)」
とは何なのか?ということです。
カズオ・イシグロが悲痛な関心を寄せていたように、彼もまたこの場所をサラエボと想定しているんではないか、という意見が多く、それであれば「人間としての最低限の矜持」がlast thingなのではないか、と私なんかは単純に思っていましたが、こういう意見があり、とても深いところを突いているな、と思いました。それはとても長く深い考察だったのですべてを思い出す事は不可能ですが、覚えている核心だけを述べますと、
この手紙は、これまたオースター作品の名登場人物であるデビッド・ジマー宛に書かれています。この、書くという行為、これだけでこの作品は成り立ち、アンナ・ブルームの運命は分からないのに、この手紙はとにもかくにもジマーの元へ届いている。
「書く」という行為
それこそが、LAST THING だったのではないか。
という事です。
私もいつかこの場で書くという行為にてお邪魔するかもしれません。今まで拙レビューを読んでいただいた皆様すべての方に感謝します。この物語はこういう文章で終わります。私の最後の挨拶とさせていただきます。
私たちが行こうとしているところまで行きついたら、もう一度手紙を書くようにします。約束します。
P.S. セミンゴの会の幹事長は誰が挙手してもなれますので(笑





馬鹿馬鹿しくなったので退会しました。2021/10/8
この書評へのコメント
- あかつき2018-04-21 12:52
そもそも「本」のランキング付けるなら、投票数ではなく書評数だと思うの。それが実際その本を手に取った人が多い話題の本ってことでしょう。特に、このサイトは新刊本や一般ベストセラーが話題にならない稀有なサイトで、そこが特徴だと思うので是非アピールしてほしい。
自分はランキングは正直どうでも良い(仲間同士のじゃれ合いのネタにはするけど)し、ランキングから次に読む本を選んでないからいっそ無くなれば良いのにと思っているのだけど、書評を書き始めた方にとってはモチベーションになっているのかな。
ランキングが無くなって兄貴が戻ってくれるならそっちのが絶対いいけど(笑)クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - かもめ通信2018-04-21 19:47
興味深く拝見するとともに非常に驚きました。
そもそもYasuhiroさんが気にしておられる「週間書評ランキング」というのは、
http://info.honzuki.jp/post-13189/にあるような
人気書評ランキングのことですよね?
私は得票数が多いことと優れているということが同義でないのは、
ベストセラー本=優れた作品とは限らないのと同じで、
ある意味自明のことだと思っています。
確かに優れた書評であるにもかかわらず、
あまり人目にふれることなく、
あまたの書評の山に埋もれてしまうものもあるでしょう。
ですが私はそういう掘り出し物を自分の読書につなげたり、
こんな素晴らしい書評、読み逃すと損だよ!と周りに宣伝したりすることに、
世間ではなかなか話題にならない本を読んで
コレ本当によかったからぜひ読んでみて!とレビューを書くのと同じような
喜びを見いだしもします。
見解の相違と言われればそれまでですが。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - ごみら2018-04-21 20:23
私はYasuhiroさんとは真逆に、このサイトの初心者です。
Yasuhiroさんの、そして皆さんのいずれ劣らぬ素晴らしい書評を読んで、自分の身の程を改めてわきまえました。
私は凡人である事を痛感し、凡人ならではの視点で書評を書いていこう、と決意を新たにしました。
そして、PCの得票に一喜一憂してしまい、ネット依存症になりそうな自分をなだめ、諫めています。
本来の目的である、本を楽しむこと、とは別の「評価されるために、受けるためにだけ書く」という行為が生活を侵食してしまうのではないかと恐れています。
書評読みだけでも、心から楽しめたら…と思います。
こういうと問題提起のようで、バッシングを受けてしまうかもしれませんが、本当に「本が好き!」な人のためのサイト利用の仕方があるのでしょうね。
大分Tasuhiroさんの意見とはずれてしまいましたが、「読書を楽しみたい」という思いを共有したと勝手に思いました。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - Yasuhiro2018-04-21 20:35
>かもめ通信 さん
コメントありがとうございます。はらわたが煮えくり返っておられるであろうことは重々承知しています。申し訳ありませんでした、と謝るしかありません。
敢えて言わせていただければ、書評ランキングは「本が好き!」の運営サイトが毎週、どころか、最近では「今日のランキング」と称して益々エスカレートさせて発表しています。気にするな、という方が無理です。
そのランキングを、毎週同じ人たちが独占していたら、新しく入ってきた人は所詮私なんか、と委縮してしまうのではないでしょうか。りゅうちゃんの苛立ちもそのあたりにあったと思っています。誰でも10票が20票、20票が30票と増えていけばひょっとしたら今週は載せてもらえるかも、と期待するんじゃないでしょうか。それで結局今週も「あああ、またYasuhiroかよ」と思われる方は絶対におられると思います。私はそんな存在のままでいたくないと思いました。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - Yasuhiro2018-04-22 23:14
>かもめ通信 さん
かもめ通信さんはこのサイトを最初から熟知されておられることはよく分かっていますし、数々の企画を立ち上げ、出版界を盛り上げていこうとされる姿勢は尊敬しています。
しかし、それに突っ走っておられるだけに見えない事、あるいは聞こえない声もある、という事は誰かが言わないといけないと思いました。ベスト10はやはりそれ相当の投票を持っておられる方は気にしているし、そのメンバーが固定していることに不満を持っていられる人がいる事は確実です。
ランキングに入る近道が企画ものを読むことだとしたら、それは違うんじゃないかと思います。多様性が失われた世界は硬直していきます。
生意気なことを書いてしまいまいましたが、私は私なりにこのサイトのことを心配しているのです。その事だけはご理解ください。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - Yasuhiro2018-04-21 20:58
>ごみら さん
コメントありがとうございます。過分なお言葉をいただき恐縮です。今後はごみらさんのように、本が好きでやる気のある方にどんどん書評をしたいただき、このサイトを盛り上げていただきたいと思います。
ランキングはサイトが集客・維持するための有効な方法ですが、おっしゃるようにそれにこだわり過ぎれば本末転倒になってしまいます。そのことは承知の上で言わせていただければ、毎回ベスト3を始め、メンバーがどんどん入れ替われば、みなさん励みになってよりサイトが活性化する一手段でもあると思います。
もちろん書評を読むだけでも全く構わないと思います。でも、自分で本を読んだら何か意見を述べたいというのも自然な欲求だと思います。遠慮せずにどんどん自分の意見を述べてください。去っていくものの戯言ですが、よろしければご参考にしてください。
ありがとうございました。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - Yasuhiro2018-04-21 21:15
>三太郎 さん
コメントありがとうございます。自分では目立たぬようにやっているつもりでしたが、あまりにも毎週ベスト3に入るので先日調べてみたんです、その結果、この12週間私の最上位作品のランキングが
1、1、2,1,2,2,3,4,2,1,2,1位
と、自分でもびっくりするような順位だったわけです。これをやったぜ「安定」上位だと思うか、これはいけないと思うか、ですよね。それはやはり書評の質だと思います。
私は、他の方の書評も(もちろん三太郎さんの素晴らしい書評も含めて)まめに読んでいる方だと思います。その上で冷静に判断してもっと素晴らしい書評があるのに自分がこんなに上位を独占していてはいけない、と判断したのです。
長い期間を空ければまたゼロから始められるかもしれません。その時はよろしくお願いします。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - mono sashi2018-04-22 02:05
*Yasuhiroさん
先日はコメントいただきありがとうございました。
Yasuhiroさんとは、加藤典洋「村上春樹はむずかしい」のやりとりが最初だったのですが、村上さんへの愛憎入り混じった感情とその知識量に圧倒されたことを覚えています。以降、レビューを読むたびに、こちらの不勉強を痛感するばかりでした。
ありがとうございました。
本好きの縁がふたたびおとずれますように☆クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - hacker2018-04-22 19:53
Yasuhiroさん
去られるとのことで、驚いています。私はYasuhiroさんのレビューの熱心な読者ではなかったと思いますが、時々拝読するレビューは興味深いものばかりだっただけに、残念です。
私のこのサイトに対する基本的態度を言わせていただければ、レビューは自分の頭の整理のために書いていて、書いた後のことはあまり気にしていないというのが実態です。もちろん、私のレビューが他の方の何かの参考になったり、自分の気に入った本を、他の方が読んでレビューを書いてくれるのはとても嬉しいことです。
ただ、そもそも、あまり他の方が読まないと思われる本、時の試練を経て生き残った作品を中心にレビューを書いていますし、それもあって、私の場合ランキングとかは無縁なのですよね。それはそれで構わないと思っています。
来る人、去る人、色々な理由があると思いますが、またどこかでYasuhiroさんとお会いしたいものです。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - Yasuhiro2018-04-22 23:20
> hacker さん
コメントありがとうございます。たしかにhackerさんとは嗜好が違っていましたが、映画という一点でとても親しみを感じていました。イーストウッドが大好きなのでその原作のレビューは楽しく読ませていただきました。
もちろんこのレビューサイトの使い方は人それぞれなんですが、以前からランキングは改善すべきじゃないかと思ってましたので、グラン・トリノじゃないですが、捨て身の提案です (^_^;)。まあこれだけ大見得切った以上そう簡単に戻ってこれるとは思っていませんが、こんな無鉄砲な奴がいたということを覚えてくださってたらとても嬉しいです。
ありがとうございました!クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - 脳裏雪2018-04-29 14:37
書評に対する興味も評価も読手によって様々ですよね、捉え方も使い方も己で決めることが出来る、然も無料です、ガサネタも多いが面白いですよね、ソレがネットです、ランキング云々はこのサイトのルールでしょう、只それだけです、従って今更それを理由に去るのは理解できない、ランキング≒人気投票、ってのは誰もが感じていることで、誰にでもイイネする人に票は集まりやすい傾向にあります、面白い書評はもっともっと得票しますが、、、当サイトを去る人には当サイトを利用する価値がなくなったのだ、負担になっているのだ、と解釈すればよいのではないでしょうか、
クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - ちょわ2018-05-15 09:41
Yasuhiroさんのご意見やご決断に腹を立てるような心の狭い人は居ないと思います。このサイトのことを思ってのご決断であることは重々承知しています。
その上であえて申し上げさせて頂けば、Yasuhiroさんの仰るようなことは「本が好き!初心者あるある」で、今に始まったことではないです。そういうことも含めて、このサイトを盛り上げるには、たくさんの方に楽しく参加していただくにはどうしたらいいか、緒先輩方がずっと何度も話し合って、行動し努力してきた長年の積み重ねの成果のひとつがまさに、Yasuhiroさんが後足で砂をおかけになっていった件の企画であっただろうと思います。
ランキングについて言えば、企画に乗ればランキングを狙いやすくなる訳ですから、上位に入ることだけを目指す人にとっては企画があることは決して不利な要素ばかりではないです。ランクインしていない良い書評があるとのご意見はごもっともだと思いますが、良い書評を定期的に書かれているレビュアーさんはランクインしていなくても認知されやすいです。
Yasuhiroさんひとりがカッコつけて辞めても、それだけで解決する問題では全然ないので、もしも本当に「本が好き!」のことを思って下さってのご行為なのであれば、今後もこのサイトを盛り上げていただければと思います。
クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - 北山みや2018-05-15 02:56
返信はいりません。報告だけ。
『ムーンパレス』のマーコの親友、デビッド・ジンマーは幼馴染のアンナ・ブルームに恋をしていたが、彼女は兄のウィリアムのところへ行ってしまった。ジンマーはずっと彼女の手紙を待っていた。13年後、マーコは妻ヘレンと二人の子供と散歩するジンマーに会うが、ジンマーは『幻影の書』で飛行機事故により家族をすべて失い、独りになる。それから、ジンマーはアンナと再会。結婚。ジンマーはアンナより先に亡くなる。ワイドショーみたいだ(笑)。
哀愁亭味楽さんの言葉を借りれば『人にものを教えるに足る資格や素質のある人の下には、自ずから人が集まります』
Yasuhiroさんの書評を読みたい人が大勢いますから、必ず帰ってきてくださいね!クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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- 出版社:白水社
- ページ数:227
- ISBN:9784560071311
- 発売日:1999年07月01日
- 価格:998円
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