書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

ゆうちゃん
レビュアー:
カリフォルニアのサリーナスの近くに住む牧場主の息子ジョーティの物語。彼は気弱な男の子だが馬と銃への憧れ、そして好奇心の強い子である。彼こそはフロンティア消滅後も開拓精神を持ち続ける人間なのかも知れない
カリフォルニア州サリーナス近くの牧場が舞台。10歳のジョーティ少年とその父カール・ティフリン、母ルース、そして使用人で馬の世話ならこの辺では並ぶ者が居ないというビリー・バックを中心とした物語である。短編4つからなる。
最初は、ジョーティが父親から贈られた赤い子馬を育てる話(本書の題名では小馬となっている)、2番目は、ティフリン家に、この辺で生まれたという男ヒターノが強引に住み込もうとする話、3番目は、ティフリン一家の牧場の雌馬ネリーを隣の牧場の種馬に種づけをさせ、ジョーティ少年がネリーの出産まで面倒を見る話、4番目はルースの父親がティフリン一家を訪ねてくる話である。

子馬の話、また雌馬ネリーを育てる話はなかなか切ない。ジョーティ少年は、西部の少年としては優しい子供で、その分、馬への愛情は一層募る。病気であれば、少年と雖も馬小屋に泊まりこむし、出産なら深夜に立ち会う。西部の少年の銃や馬へのあこがれ、そしてそれを受け入れる親の心情は、現代日本では理解できないかもしれない。
ヒターノの話は、四つの話の中ではちょっと関連性が薄い感じがする。彼は洪水か何かでもう無くなってしまった近隣の牧場で生まれたらしいが、生活に余裕がある訳でもないティフリン一家にしてみれば、強引に押しかけてきた男に過ぎない。カールは取り敢えず一晩だけ泊め、今夜だけだから、とたらふく夕飯と食べさせようとするが、その翌朝、カールが殺処分を考えていた老馬を盗んで出て行ってしまう。カールは処分の手間が省けたと喜ぶ。最後の話に登場するルースの父は、西部開拓が太平洋に達した時の開拓団のリーダーだった。カールは舅から毎度同じ話を聞かされてうんざりしているのだが、その愚痴をルースの父に聞かれてしまう。慌てて謝罪するがもう遅かった。ルースの父は怒る訳でもなく、逸話を繰り返すのではなく、一丸となって進む開拓精神を伝えるべきだったと反省するのだった。

ジョーティ少年は、小動物や昆虫を殺したり、馬を持った事を友達に自慢しているところを想像してみたり、と子供らしい欠点も書かれ決して理想化された西部の少年ではない。だが、彼には牧場から見える山々の向こうに何があるのか?という強い好奇心がある。最後の場面などを読むと、ジョーティ少年こそ、祖父の精神を受け継ぐ人物なのだと思う。父カールは威厳のある西部の男として描かれてはいるが、どちらかというと体面だけを重んじ、生活面からは保守的であり、ヒターノの逸話がそれを強調しているのかもしれない。カールは、ジョーティ少年からあの山の向こうに何があるのか?と聞かれても、山が続きそのうち海になる、と言うだけだった。その山には何があるのか?と聞かれても、岩がゴロゴロしているだけで、行っても面白くないという。だが西部という情報の限られた場所に暮らしながら、ジョーティはそういう好奇心を何時までも失わない少年なのである。
*訳者後書きを読むと、最初の三編がまとまった話で、最後の一編は、訳者がスタインベックの短編から登場人物が共通するものをピックアップしてこの本に入れたとある。もしかしたら、本書に統一した観点などないのかもしれない。ただ、ジョーティ少年に著者の自伝的な要素があることだけは確実なようだ。
*本書には先住民や黒人は登場しない。ヒターノは、パイサーノと呼ばれるスペイン人と先住民の混血の人らしいが・・。スタインベックには、パイサーノの生活を描いた小説があるそうだが、本書は白人の開拓の物語であって、先住民に対して白人の開拓がいかなるものであったかは、全く触れていない。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1689 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

読んで楽しい:2票
参考になる:25票
共感した:1票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『赤い小馬』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ