紅い芥子粒さん
レビュアー:
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ユダヤ人国家のイスラエルと、パレスチナ人の自治地区であるガザ地区およびヨルダン川西岸地区に分かれているパレスチナ。
ヨルダン川西岸地区には、分離壁が築かれています。
イギリス人の映像作家マックスは、壁の両側で何が起きているか、世界の人々に知らせたくて、パレスチナを訪れました。
旅の最初の日。
マックスは、丘のてっぺんに生える古いオリーブの木の下で、一心にカイト(凧)を作る少年に出会います。
マックスのカメラと撮影に興味津々の少年。
明るく表情も豊かなのに、ひとことも言葉を発しません。
意気投合したふたり。
マックスは、うっかり足をくじいてしまい、少年の家に泊めてもらうことになりました。
少年の家は、羊飼いの大家族でした。さいしょは警戒されましたが、少年のおかげで温かいもてなしを受けることができました。
少年が寝てしまってから、家長のヤセルが、少年のことを話してくれました。
少年の名はサイード。
父親は、何年も前から、イスラエルの収容所に入れられていること。
兄がいたけれど、イスラエル軍の警備兵に殺されてしまったこと。
目の前で兄が殺されて、サイードは声が出なくなってしまったこと。
あくる日、マックスは、サイードについて丘の上に行きました。
ちょうどいい風を待って、サイードはカイトを上げるのです。
マックスは撮影します。
糸を操る少年と空を泳ぐカイトを。
谷に延びる壁、その向こうの丘で遊ぶイスラエルの子どもたちを。
ひときわ強い東風が吹いたとき、サイードは、糸を手放しました。
空高く舞い上がり、カイトは、イスラエルの子どもたちの間に落ちていきました。
それを車いすにのった青いスカーフの女の子が拾い上げ、サイードに向かって手を振ったのです。
サイードのカイトには、「シャラーム(平和) マフムートとサイード」と書いてありました。
マフムートとは、警備兵に撃たれて死んだ兄の名前です。
だれよりもカイトが上手だった、自慢の兄でした。
マフムートが死んでから、サイードは、いくつもいくつも、カイトを空に上げ、糸を手放し、イスラエルの丘に落としてきたのでした。
「シャラーム、マフムートとサイード」と書いて……
その次の日、マックスは、サイードと手をつないで丘に上りました。
オリーブの木の下で、ドキュメンタリー映画のラストシーンを撮影するつもりでした。
そのとき、ふたりが、壁の向こう側の空に目にした光景は……
戦争が日常のパレスチナ。
父と兄を奪われた少年の、平和への切なる願いに胸を打たれます。
分離壁がただの観光名所になり、やがて人々の手で取り壊される日が、一日も早く来ますように。
旅の最初の日。
マックスは、丘のてっぺんに生える古いオリーブの木の下で、一心にカイト(凧)を作る少年に出会います。
マックスのカメラと撮影に興味津々の少年。
明るく表情も豊かなのに、ひとことも言葉を発しません。
意気投合したふたり。
マックスは、うっかり足をくじいてしまい、少年の家に泊めてもらうことになりました。
少年の家は、羊飼いの大家族でした。さいしょは警戒されましたが、少年のおかげで温かいもてなしを受けることができました。
少年が寝てしまってから、家長のヤセルが、少年のことを話してくれました。
少年の名はサイード。
父親は、何年も前から、イスラエルの収容所に入れられていること。
兄がいたけれど、イスラエル軍の警備兵に殺されてしまったこと。
目の前で兄が殺されて、サイードは声が出なくなってしまったこと。
あくる日、マックスは、サイードについて丘の上に行きました。
ちょうどいい風を待って、サイードはカイトを上げるのです。
マックスは撮影します。
糸を操る少年と空を泳ぐカイトを。
谷に延びる壁、その向こうの丘で遊ぶイスラエルの子どもたちを。
ひときわ強い東風が吹いたとき、サイードは、糸を手放しました。
空高く舞い上がり、カイトは、イスラエルの子どもたちの間に落ちていきました。
それを車いすにのった青いスカーフの女の子が拾い上げ、サイードに向かって手を振ったのです。
サイードのカイトには、「シャラーム(平和) マフムートとサイード」と書いてありました。
マフムートとは、警備兵に撃たれて死んだ兄の名前です。
だれよりもカイトが上手だった、自慢の兄でした。
マフムートが死んでから、サイードは、いくつもいくつも、カイトを空に上げ、糸を手放し、イスラエルの丘に落としてきたのでした。
「シャラーム、マフムートとサイード」と書いて……
その次の日、マックスは、サイードと手をつないで丘に上りました。
オリーブの木の下で、ドキュメンタリー映画のラストシーンを撮影するつもりでした。
そのとき、ふたりが、壁の向こう側の空に目にした光景は……
戦争が日常のパレスチナ。
父と兄を奪われた少年の、平和への切なる願いに胸を打たれます。
分離壁がただの観光名所になり、やがて人々の手で取り壊される日が、一日も早く来ますように。
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
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- 出版社:あかね書房
- ページ数:94
- ISBN:9784251073020
- 発売日:2011年06月01日
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