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指名献本書評
たけぞう
レビュアー:
長年待ち続けた二十世紀の文豪に挑む。
ヴァージニア・ウルフは、わたしにとって特別な作家さんです。
個人的な理由ですが、いつか読まなくてはと思っていたうちの
一番手の人なのです。

わが家には、ウルフの代表作のダロウェイ夫人があり、
持ち主にどんな感じが聞いたことがあります。結構前のことです。
わたしの読書量が少なかったのを心配したのか、お薦めしないとの回答でした。
理由は、とても内省的で、内的独白が続いたりする
変わった作品だからとのことでした。
とても大切なのに他人に薦められない本。
残念だし、どこか悔しくて、いつかきっと読もうという思いが残りました。

今回この作品の新訳が出たことを知り、読みたいと手を挙げました。
すると信頼する読み友さんが、大丈夫か、初読なら薦めないよと
心配してくれました。

ページ数は多くないです。だからこれは作品の質の問題なのでしょう。
心配してくれたことに感謝し、慎重に読み進めることを肝に銘じて
手に取りました。今こそが読み時だと思ったのです。
最初から二度読み覚悟で、一回目の読速を通常の半分から
三分の一くらいまで落としました。

たぶんそれで正しかったのだろうと思います。
二回目は、びっくりするほど物語が振り返ってくれた感覚がありました。
それでもなお指の間からこぼれていく感覚もあったので、
この深さこそが多くの人を惹きつけているウルフなのだろういう
想いを抱きました。

最新訳なので、文章は読みやすいです。
最大の特徴は、文中の訳者補足と、巻末の注です。
研究者じゃないと絶対に書けないレベルで、大いに助けになりました。
幕間は、難易度の高さから評価が真っぷたつに分かれているそうですが、
補足と注を見れば理由は明白です。
初読で恐縮ですが、それならばわたしは平凡社版を強くお薦めします。
補足があることでウルフの高度な知性を理解できましたから。

では。知的だからよい作品なのでしょうか。
逆説的になりますが、この作品を読んでいくと、知的であることを
ウルフ自身が否定しているふしがあるのです。
頭でっかちにならず、自然体で、穏やかに日常を過ごすことに価値を
感じているようです。知性が不要とは言っていませんが、知性はその人の
一部に過ぎないと考え、本当にあるべき姿を追い求めたのかもしれません。

ウルフは、登場人物たちのこんなところになぞらえています。
上流階級の鼻持ちのならなさ、いくつになっても愛だの恋だのと
夢見がちな女性、大都会ロンドンでの出来る男の自負心などです。
そんな人間のえぐみをばんばん入れてきます。

幕間は、田舎の上流階級の屋敷を舞台にした劇中劇の作品です。
登場人物たちの人間性だけでなく、劇のセリフを通しても、
人間の愚かさをびしびし突いてくるのですね。

書き方も上品です。なじったりなどの直接的な表現ではなく、
表面上はお気楽な社交界でのかわいいつばぜり合いぐらいなのです。
でもよく読むと、第二次世界大戦前夜のヒトラーの怪しい動きとか、
ロンドンの株式売買での雰囲気とか、現実社会の薄気味悪さが
見え隠れしているのです。

表面づらを合わせただけの、張りぼてみたいなぐらぐらの世界を、
ウルフはすらりと書いていきます。
だから二度読みは必須なんですね。

ジェンダーの作家とか、モダニズムの旗手とかも言われる作家さんです。
文体は、韻を踏んだり、多くの切り替え表現を用いたりした
知性あふれるものらしいのですが、こればかりは翻訳の限界ですね。
それでも、翻訳者の工夫が素晴らしくて助けられた部分が沢山ありました。

正直、ジェンダー、モダニズムのキーワードの部分はわたしには
理解できませんでした。解説でLGBTQの読みかたを書いてありますが、
二度読んでもちんぷんかんぷんです。
少なくとも、人間の本質を書こうとして、
現場主義に根ざす重要性を説いていることは分かりました。

いい本に当たったのだろうと思います。
二度読みくらいでは充分ではないかもですが、
読みごたえがあるとはこういう本のことを言うのでしょう。
それが伝えられるだけでも満足です。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1468 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。

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