レビュアー:
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愛情込めて紡ぎ織られたショールのような肌触り、優しい温もりに包まれる再生の物語である。
その町はどこからでも岩手山が見えて、山腹を通って流れてくる湧き水は冷たく澄んでいる。絵本の風景を模した祖父の庭には「桃いろのうつくしい朝の日光」が射しこみ、「きれいにすきとおった風」が吹き抜ける。家庭にも学校にも居場所のなかった美緒は、このイーハトーブの町で羊毛の手織物・ホームスパンに出会い、生きるよすがを見いだす。 
 
「ホームスパン」とは、手作業で羊毛を洗い、染めて紡いで織った生地である。(機械で洗う場合もあるが、出来上がりの風合いの柔らかさが違うそうだ。)いじめが原因で高校に行けなくなった美緒は、辛くなるとホームスパンの赤いショールを被って部屋に閉じこもる。岩手で工房を営む祖父母が、お宮参りのお祝いに手作りしてくれたものだ。娘を立ち直らせようと焦る母はショールを隠し、美緒には「捨てた」という。理解しあえない親子関係と両親の険悪な夫婦仲に耐えられなくなった美緒は、会った記憶もない祖父のもとへと家出する。
ホームスパン工房を主宰する祖父の絋治郎は、染色の色彩設計から注文者の希望に応じ製品を作り上げる熟練の職人で、優れた鑑識眼を持つ収集家で、教養豊かな懐の深い男だった。この素敵なおじいちゃんの仕事を目の当たりにした美緒は、ホームスパンに魅せられてゆく。予定調和的に思えるかもしれないが、美緒だけでなく両親や祖父の精神的葛藤がきめ細かく描かれ、それぞれがもどかしくも愛おしい。 また、宮沢賢治の「水仙月の四日」の主人公と美緒をオーバーラップさせる描き方も、心に響くものがある。
 
代々受け継がれてきた見本帳、別の道を歩んだ父の中に息づくモノ造りの姿勢、祖父の目には糸を紡ぐ孫と亡き妻の姿が重なる。血によって受け継がれるものは確かにあるのだろう。技も、そして、心の在り様も。
「言はで思うぞ、言ふにまされる」
言えないでいる相手を思う気持ちは、口に出して言うよりも強いのだ。岩手の県名の由来になったこの歌のように。
おっと、忘れてはいけない。引退した工房に毎日やって来る賑やかなおばあちゃんたち、雰囲気ある喫茶店が点在する町の風景、手のひらサイズの羊のぬいぐるみ、ふっかふかの「メイちゃん6号」とか。もう、癒しが満載である。
「ホームスパン」とは、手作業で羊毛を洗い、染めて紡いで織った生地である。(機械で洗う場合もあるが、出来上がりの風合いの柔らかさが違うそうだ。)いじめが原因で高校に行けなくなった美緒は、辛くなるとホームスパンの赤いショールを被って部屋に閉じこもる。岩手で工房を営む祖父母が、お宮参りのお祝いに手作りしてくれたものだ。娘を立ち直らせようと焦る母はショールを隠し、美緒には「捨てた」という。理解しあえない親子関係と両親の険悪な夫婦仲に耐えられなくなった美緒は、会った記憶もない祖父のもとへと家出する。
ホームスパン工房を主宰する祖父の絋治郎は、染色の色彩設計から注文者の希望に応じ製品を作り上げる熟練の職人で、優れた鑑識眼を持つ収集家で、教養豊かな懐の深い男だった。この素敵なおじいちゃんの仕事を目の当たりにした美緒は、ホームスパンに魅せられてゆく。予定調和的に思えるかもしれないが、美緒だけでなく両親や祖父の精神的葛藤がきめ細かく描かれ、それぞれがもどかしくも愛おしい。 また、宮沢賢治の「水仙月の四日」の主人公と美緒をオーバーラップさせる描き方も、心に響くものがある。
代々受け継がれてきた見本帳、別の道を歩んだ父の中に息づくモノ造りの姿勢、祖父の目には糸を紡ぐ孫と亡き妻の姿が重なる。血によって受け継がれるものは確かにあるのだろう。技も、そして、心の在り様も。
「言はで思うぞ、言ふにまされる」
言えないでいる相手を思う気持ちは、口に出して言うよりも強いのだ。岩手の県名の由来になったこの歌のように。
おっと、忘れてはいけない。引退した工房に毎日やって来る賑やかなおばあちゃんたち、雰囲気ある喫茶店が点在する町の風景、手のひらサイズの羊のぬいぐるみ、ふっかふかの「メイちゃん6号」とか。もう、癒しが満載である。
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「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。
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- 出版社:文藝春秋
- ページ数:360
- ISBN:9784163911311
- 発売日:2020年01月23日
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