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献本書評
かもめ通信
レビュアー:
これまで様々な捜査官に会ってきたけれど、ここまで下劣で、姑息で、偏見に満ちていて、同情を寄せる余地がかけらもない主人公にはちょっとお目にかかったことがない。っていうか、彼って本当に主人公なの!?
以前読んだ同じ作者による『許されざる者』がとても印象深い作品だったので、この本も是非とも読みたいと思っていた。
5冠獲得『許されざる者』の著者新シリーズ
見習い警官の暴行殺人に国家犯罪捜査局から派遣されたのは、規格外の警部率いる捜査チームだった。


本作を読み始めてから何度、上巻の帯に書かれたその文字を見返したことだろう。
この“あおり”確かに間違ったことは書いていない。
だけど、まさか、こんな展開だとは、思いも寄らなかったのだ。

事件は7月の初めに起きた。
ストックホルムから南西に400㎞ほどに位置するヴェグシェーの町で起きた強姦殺人。
被害者の女性は警察学校の学生で、その夏は地元の警察署で受付のアルバイトをしていたから、地元警察の面々とは顔なじみだった。

県警本部長はこの事件を解決するために、かつての級友、国家犯罪捜査局長官に応援を要請する。
時はヴァカンスシーズン真っ最中で、多くのスタッフが休暇をとって田舎の別荘に引っ込んだり、旅行に出かけたりと、どこも人手不足ではあったが、国家犯罪捜査局長官は直ちに要請に応じることに。

国家犯罪捜査局殺人捜査特別班の“偉大なる伝説の捜査官”エーヴェエルト・ベックストレーム警部に白羽の矢が立ったのは、彼が休暇をとる同僚達を馬鹿にしつつ、誰に咎められることもなく好き勝手に振る舞えるこの時期に、嬉々として出勤していたからに他ならなかった。

自分を脂ののりきった年齢の、賢明な男だと信じているベックストレームは、あれこれと熟考の末に選んだメンバーを集めて、捜査チームを結成し、ヴェグシェーに乗り込んでいくのだが……。


いやはや全く。
これまでだって下品でだらしのないタイプや、なにかとやりすぎるトラブルメーカータイプなど、様々な捜査官に会ってきたけれど、ここまで下劣で、姑息で、偏見に満ちていて、同情を寄せる余地がかけらもない主人公にはちょっとお目にかかったことがない。

ことある毎に彼が感じるという“バイブレーション”は、捜査のプロによる知的なひらめきなどではなく、単に嫌らしい想像の産物だとしか思えないのだ。

とりわけ中盤までは、犯人への怒りよりもベックストレームに対する苛立たしさが勝って、なんとかしてこの男をぎゃふんと言わせてやりたいという気分に!?

そんな男が担当するのだから、当然と言えば当然のことながら、捜査は難航、捜査チームの様相は泥沼を呈し、住民の間に不信と不満が高まって……

しかし、下巻に移行したあたりから、様子が変わる。

ええっ!?まさか!こういう展開だったとは!!
正直、思いも寄らなかった!!


読み終えた後もベックストレームに抱いた不快な気持ちはおさまらないし、真犯人は当たらないどころか、あの人の方が怪しかったのに!?などと未だに思っている私だが、なんだかんだと毎度毎度ブツブツ言いながらも、きっとこれからもこの作家の作品を手に取ってしまうに違いないという気もしている。

なにしろ訳者のあとがきによれば、この卑劣な捜査官ベックストレームのシリーズは本書の他にあと3冊もあるというのだ。

おまけに本書同様『許されざる者』の主人公ヨハンソンの登場する作品群とも緩やかにつながっているということを知って、次々邦訳される作品を読み進め、最後は時系列に並べ替えて読んでみる……という楽しみ方もできそうな……などと考えてしまうあたり、やはりこの作家の作品にはある種の中毒性があるような気がしている。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2235 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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