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ぱせりさん
ぱせり
レビュアー:
「ぼくたちだけ、ちがうね」
小学6年生の波楽(はら)は、父の本棚で一枚のはがきを見つける。はがきに書かれていた名前は、今のかあさんではない、自分を産んだ女性であることに気が付き、差出人の住所を訪ねようとする。それは、今までにも、うすうす気が付いていた、その他の事情を確認することでもあった。
また、波楽と親友のレン。二人は間違いなく親友であるけれど、フランクに話せないことがあった。


家族のこと、友だちのこと、自分自身の気持ち。過去のこと、未来のこと。
一人称語りの波楽が、日常のことを(読者にあらかじめ何の情報も与えずに)あるがままに話しているとき、こちらは、与えられない情報を、こちらの常識で推量して埋めていく。
そうして、波楽の小さな冒険を、ともにする。
だんだんに、思ってもみなかった事実が浮かび上がってきて、小学六年生が置かれた困難な現実に驚く。
そして、ここまで読んできて「おや?」と思った(でも、「ま、いいか」と読み飛ばしてきた)あの件、この件は、つまりそういうことだったのか、と合点がいく。
同時に、こちらが常識だと思っていた当て推量が、実に偏見に満ちたものだったことを、思い知らされる。
彼らの困難な現実は、彼らにはどうしようもない。それにもかかわらず、彼らをこんなにも難しい立ち場におき、さらにそれに拍車をかけているのは、あなた(をはじめとした大多数)のこうした思い込みによるのではないか、と問いかけられているように感じて居たたまれなかった。


始まりは、「左利き」だった。駅の自動改札機も、自動販売機も、左利きには使い勝手が悪い。ノートに文字を書くときだってそうだ。クラスメイトは、右利きが大勢で、左利きはわずかしかいないから、この疎外感を分かち合える仲間を見つけることさえ、一苦労なのだ。
「ぼくたちだけ、ちがうね」
物語はそんなところから、始まる。「そんなところ」はさまざまな「ちがう」の入口だ。
ちがうことが、困難よりも、楽しいと思えるようになるには、どうしたらいいのだろう。
真剣に考える子どもたちは、素直でやさしい。だから切ない。そして、やっぱり、やさしい。


子どもたちには未来がある。一人の子どもに「未来」という名前を贈った作者の願い、祈りが、物語の先へと続いている。
颯爽と歩きだす子どもたちが眩しい。
「人生が一枚のキャンパスだとしたら、そこには無限の可能性がある」
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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1738 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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