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ぽんきち
レビュアー:
ロシアと日本の狭間で。
第162回直木賞受賞作。

サハリン=樺太は北海道の北側に位置し、ロシアからもごく近い、南北に細長い島である。古来、北部にはギリヤークと称される少数民族、南部には樺太アイヌと呼ばれるアイヌ民族系の人々などが住んでいた。地理的条件から、日本とロシアの間で翻弄されてきた歴史を持つ。
本作の舞台である19世紀後半から20世紀半ばに掛けては、特に蹂躙の激しかった時代で、南樺太のアイヌは北海道への移住を強いられ、厳しい差別も受けた。ロシア側からも、サハリンの先住民たちは土人と見なされ、無知蒙昧と蔑まれていた。

本書の主人公にあたる人物は2人いる。
1人は樺太アイヌのヤヨマネクフ。幼少時に樺太から北海道・対雁に移住し、再び樺太に戻り、後に南極探検隊に加わる人物である。
もう1人はポーランド人民族学者プロニスワフ・ピウスツキ。ロシア皇帝暗殺を謀ったとしてサハリンに流刑となり、その地でアイヌの文化を研究した。弟はポーランド共和国建国の父、ヨゼフである。
どちらも想像を絶するような経歴の持ち主だが、驚くことに彼らは実在の人物であり、かつ2人には実際に接点があった。その他、金田一京助、白瀬矗、大隈重信、二葉亭四迷、アイヌの頭領バフンケ、和人とアイヌ両方の血を引く千徳太郎治など、登場人物には実在した人が多い。
膨大な資料を背景に紡がれるのは、虐げられ、歴史に翻弄された人々がなお自らの足で立って生きようとする情熱の物語である。

サハリンの厳しい自然の中で、原住民の頑固者と異邦人の学者が出会う。学者は原住民の音楽や言葉を録音する。その音源は時代を超えて、人と人とをつないでいく。

ヤヨマネクフの根底には、怒りが宿る。故郷を追われ、慣れぬ農業に同胞の生活は困窮を極め、流行病のために妻も失う。それでもなお、学校を作ろうとする友に手を貸し、滅びゆく運命に抗おうとする。会うたびに殴り合いとなる悪友との関係性もなかなかおもしろい。
ピウスツキの人生は困難の連続である。流刑で青春を失い、やっと見出した安住の地で妻を娶るが、故郷ポーランドを救う願いは捨てきれず、心は2つに引き裂かれる。彼が最後に見る「夢」の美しさと哀しさは、忘れがたい印象を残す。
おそらくこちらは架空の人物だと思われるが、アイヌのトンコリ(五弦琴)の奏者である女性、イペカラもまた物語を牽引する1人である。勝気なイペカラは時折起こる理不尽な事柄に「馬鹿(ハイタクル)!」と叫びながら人生の荒波を渡る。物語全体との関わりがなかなか見えてこない序章を、終章で本編に結び付けるのはイペカラである。

数奇な史実、激動のサハリン史に目を奪われる。
さて、著者がそれをどう料理したか、その評価は個々の読者でややばらつきがありそうに思う。個人的には、巧みというよりは力技でまとめたように感じた。登場人物の多さもあって、やや雑然とした印象も残る。
とはいえ、400ページを一気に読ませるエネルギーを秘めた力作である。

タイトルの「熱源」とは何か。
それは終盤に明らかになる。それぞれの人物が抱える「それ」が見えたとき、読者の胸にも熱いものがあふれるだろう。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1826 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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