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ぷるーと
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彼らが感じる「熱さ」とは?

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

ヤヨマネフは、樺太に生まれ北海道に移住した。だが、北海道は樺太から移住してきたアイヌ人たにとって住み良い地ではなく、その後コレラが流行し、アイヌたちの生活は苦しくなるばかりだった。
妻をコレラで亡くしたヤヨマネフは、息子とともに樺太に戻った。だが、かつて自分たちが住んでいた村は、ロシア人の入植者に奪われていた。

ポーランド人のブロニスワフ・ピウスツキは、ロシア皇帝暗殺を謀った罪でサハリン(樺太)に流刑になった。そのサハリンで出会った先住民ギリヤーク人は、ブロニスワフには、同じ流刑者たちよりずっと心を許せる話し相手となっていった。ロシア人に馬鹿にされ愚弄され続けているギリヤーク人にポーランド人と相通じるものを感じたブロニスワフは、ギリヤーク人に必要なものは教育だと考え、彼らとの交流を続けた。のちに、彼が書いたギリヤーク人に関する詳細な論文が認められ、ブロニスワフは、ウラジオストクの博物館の研究員となった。

ヤヨマネフは、自らの出自、アイヌ民族の存在意義を考えずにはいられない。だが、北海道にいても樺太にいても、アイヌ民族は土人、劣った人種としてしかみなされていないことに、なんともいえない憤りを感じている。その焦燥感は、ついには、彼を南極大陸探検の犬橇係に立候補させるまでになる。

自分たちの存在意義とは何かと苦しんでいたのは、ブロニスワフも同じだった。だが、同じように革命を目指しながらも、弟のユゼフは実力行使・武力行使を是とするのに対し、兄のブロニスワフはそうではない意識改革による革命を考えており、兄弟二人は最後の最後まで全く理解し合えない。

『熱源』とは何とも不思議な題だが、樺太の真冬の極限の寒さを「熱い」と表現したヤヨマネフの言葉から始まった物語の中でも、何度か「熱い」「熱源」という言葉が印象的に使われている。それは、「自分が今ここにいることの意義を強く感じとっている、感じとりたい」ということを表しているのではないかと、私は思った。

力がないから馬鹿にされ劣悪な条件を飲まされることになってしまった、ならば、自分たちはより強くなっていずれは欧州列強も凌駕する、と時の重鎮大隈重信はいう。だが、力がないから少数だからと、踏みにじられていい民族などあるだろうか。
文明について、「馬鹿で弱い奴は死んでもいいっていう、思い込みだろうな」と、ヤヨマネフは言っている。そういう思い込みが、次々に争い事を引き起こす。

この不穏な時節だからこそ、ことの作品の熱さがひりひりと伝わってくる。
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ぷるーと
ぷるーと さん本が好き!1級(書評数:2931 件)

 ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
 よろしくお願いします。
 

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