かもめ通信さん
レビュアー:
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いやこれは面白かった。ロマンス小説がお好きなあなたも、そういう分野にはとんと興味は無いけれど、マーケティング戦略には関心が……とおっしゃるあなたも、まずは試しに読んでみて!
恋愛ロマンス小説の代名詞「ハーレクイン」はどう読まれ、書かれてきたか。ヒロインとヒーローの変遷、フェミニズムとの攻防……偉大なるマンネリ小説からアメリカ社会を読む。
こんなキャッチコピーを目にしたら、「いったいこれはどういう読者を想定して書かれているのかしら」と気にならない?
ハーレクイン・ロマンスの愛読者なら、今更その魅力を教えてもらうまでもなかろうし、アメリカ社会を読み解くなら、他にいくらでも切り口がありそうだし。
そんなわけで、試しにさわりだけでもと、Kindleサンプルを読んでみた。
著者はアメリカ文学・アメリカ文化を専門とする研究者で、ペーパーバック本の出版史について研究しているうちに、枠にはまらない特異な発展を遂げてきた「ハーレクイン・ロマンス」に否が応でも着目せずにはいられなくなったという「男性」だ。
その著者がまずは試しにと読んでみたハーレクイン・ロマンスのあらすじ紹介からはじまって……。
あれこれとツッコミながら読んでいる中年男性を想像して思わず笑ってしまうつかみはOK!
思わずポチッと買ってしまった。
というわけで、ハーレクイン・ロマンス。
あの薄いペーパーバックは、読んだことはあるにはあるが、10代の頃に1、2冊程度、遙か彼方の遠い思い出。
とはいえ、心配はいらない。
この本は、ハーレクイン・ロマンス初心者でも十分に楽しめる。
まずはハーレクイン誕生秘話から。
ロマンス小説のペーパーバック化に乗り出した二人のカナダ人女性が好んで読んだ物語は、“濃厚なラブシーンが一切無く、濡れ場と言えば最後の方に一度キスシーンがあるばかり、それもヒロインとヒーローが幸福な結婚によって終わるというのが必須条件”。
最初のうちは、図書館で片っ端からロマンス小説を読み込んで、これは!という作品の再版権を求めて交渉をするというスタンスだったが、やがて、イギリスの出版社に目を留め、ここにターゲットを絞って再版権を獲得することに。
かたやイギリスの事情はというと、出版社と貸本屋、貸本屋と読者、有名な男性作家と無数の無名な女性作家たち……等々、あれもこれもいろいろと興味深い。
読者より年下のヒロイン
絶世の美女よりかわいい女の子
深窓の令嬢よりつましい職業婦人
高身長マッチョでイケメンなヒーロー
障害はロマンスの必須要素
ハッピーエンドの結末
といった、長きにわたりハーレクイン支え続けてきた、偉大なるワンパターン化には思わずうなずきながら笑ってしまう。
やがて満を期してアメリカに進出してからの販売戦略もなかなかの読み応え。
時代とともに変化するパターンも面白いが、日本上陸後、独自の進化を遂げたというコミック化もまた興味深い。
冒頭で紹介したキャッチには
偉大なるマンネリ小説からアメリカ社会を読むとあるし、本書の副題にも「恋愛小説から読むアメリカ」とあるのだけれど、アメリカを読むというよりはもっと広く、ハーレクインから出版文化を読み解く、という視点をもった本だった。
とはいえ、全くひっかかる点がなかったというわけでもないので、面白く読まれたという方とはぜひ、いろいろ語り合ってみたいかも!
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- 出版社:平凡社
- ページ数:252
- ISBN:9784582859300
- 発売日:2019年12月16日
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