darklyさん
レビュアー:
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内容は本格的でありながらも、詩・文学・哲学を交えて「時間」について考察する正に知の巨人と呼ぶにふさわしいループ量子重力理論学者カルロ・ロヴェッリによる科学エッセイ
万物の理論、つまり宇宙がどのようにできているかという理論を発見することは人類の夢であり、そのためには相対性理論と量子力学の統合が必要です。宇宙が相対性理論に基づいていることは間違いがないですが、ビックバンまで遡ると宇宙は量子の大きさまで小さくなります。その領域では宇宙は量子力学に基づくはずですがこの二つの理論を統合しようとすると矛盾が生じます。
その問題にアプローチする理論の中で有力とされているのが「超ひも理論」と「ループ量子重力理論」です。本書の筆者カルロ・ロヴェッリはループ量子重力理論の提唱者であり当然本書はその理論を前提として書かれています。
これは私が勝手に思っていることですが、20世紀以降の物理学、つまり相対性理論や量子力学以降の物理学の対象は人間には見たり感じたりすることが不可能な巨大か微小な世界もしくは人間の感覚器官では感知することができないものになっています。したがってその世界を探索するには数学を道具として論理的に探っていくしかありません。そこで発見されることがどんなに人間の感覚からして理解できないものであったとしても。科学者も人間であり人間の感覚で理解できないものを理解しようとすればあるいは説明しようとすればそれは自ずと哲学的あるいは宗教的な色彩を帯びてくるように思えます。
古代のギリシャでの偉大な哲学者たちは空間や時間、宇宙について思索しました。その中には現在では荒唐無稽なものもあれば現在においても鋭いものもあります。中世から近代にかけて物理学が発展しましたが、その対象は人間が感知できる範囲が中心であったため宗教・哲学的なものの考え方の時代から客観的に実証された物理学の時代へ移りました。そして20世紀以降は物理学が人間が感知できない対象を扱うようになりまたそこに哲学的な要素が現れてきたように思います。さらに人間の直観に反する事象の解釈はSF的でもあります。つまり、哲学・宗教の時代→物理学の時代→物理学&哲学&SFの時代と変遷してきたのではないかと思います。果たしてこれが最終的に再度物理学の時代となるのか。
本書は現在よく分からないものの中でも最大の謎「時間」について筆者は物理学的アプローチ、哲学的アプローチを中心に彼の現在における「時間」の考え方について述べた科学エッセイです。
第一部「時間の崩壊」は今現在時間について分かっていることのおさらいです。例えば場所や速度によって時間の進み方が違うという相対性理論が正しいことが証明された今、ニュートン力学における変数tは意味がなくなってしまうことなどです。もっとも現在の人類の科学技術レベル、ロケットを飛ばすのが精一杯のレベルではニュートン力学でも十分通用します。結論的には物理学には時間という概念は存在しないということです。一般的に思われている時間は誰にでも同じ速さで流れていくという感覚はニュートンの時代に信じられてきたものを我々が所与のものとして思い込まされているだけだと筆者は断言します。特に目からウロコだったのが時間の経過と関係があると思えるエントロピーに関する説明です。これについて詳しく書きたいのですがそれだけでかなりの文字数となりますので我慢します。
第二部「時間のない世界」では、筆者のループ量子重力理論研究者としての色彩が強くできます。ニュートン力学や相対性理論、超ひも理論のように時空が所与ではなく、あるのはループだけであり、重力を生み出すループ同士の相互作用によって時空があるように思えるという。
第三部「時間の源へ」では、時間についての筆者の推論が展開しますが、筆者も難しく感じる場合は飛ばしてくださいという第9章、10章は私にはよく分かりませんでした。そして第11章から13章にかけて今までの物理学の結論に反して私たちがなぜ時間というものを感じるかについて述べられます。詩・文学・哲学を交えながら筆者の考えを推し進めていきます。
本書には数式が一つしか出てきません。したがって私のような中途半端な知識しかない者にとって勿論分からない部分は多々あったとしても全体としてはとても知的興奮を覚える内容です。しかも前述のように詩・文学・哲学を交えた美しい文章、歴史や過去の偉大な科学者に対するリスペクトが感じられる文章、前向きで自分の人生を精一杯全うしようとする筆者の姿勢など単純に科学エッセイとして分類するのが難しいほどの内容です。年初から当たりでした。
その問題にアプローチする理論の中で有力とされているのが「超ひも理論」と「ループ量子重力理論」です。本書の筆者カルロ・ロヴェッリはループ量子重力理論の提唱者であり当然本書はその理論を前提として書かれています。
これは私が勝手に思っていることですが、20世紀以降の物理学、つまり相対性理論や量子力学以降の物理学の対象は人間には見たり感じたりすることが不可能な巨大か微小な世界もしくは人間の感覚器官では感知することができないものになっています。したがってその世界を探索するには数学を道具として論理的に探っていくしかありません。そこで発見されることがどんなに人間の感覚からして理解できないものであったとしても。科学者も人間であり人間の感覚で理解できないものを理解しようとすればあるいは説明しようとすればそれは自ずと哲学的あるいは宗教的な色彩を帯びてくるように思えます。
古代のギリシャでの偉大な哲学者たちは空間や時間、宇宙について思索しました。その中には現在では荒唐無稽なものもあれば現在においても鋭いものもあります。中世から近代にかけて物理学が発展しましたが、その対象は人間が感知できる範囲が中心であったため宗教・哲学的なものの考え方の時代から客観的に実証された物理学の時代へ移りました。そして20世紀以降は物理学が人間が感知できない対象を扱うようになりまたそこに哲学的な要素が現れてきたように思います。さらに人間の直観に反する事象の解釈はSF的でもあります。つまり、哲学・宗教の時代→物理学の時代→物理学&哲学&SFの時代と変遷してきたのではないかと思います。果たしてこれが最終的に再度物理学の時代となるのか。
本書は現在よく分からないものの中でも最大の謎「時間」について筆者は物理学的アプローチ、哲学的アプローチを中心に彼の現在における「時間」の考え方について述べた科学エッセイです。
第一部「時間の崩壊」は今現在時間について分かっていることのおさらいです。例えば場所や速度によって時間の進み方が違うという相対性理論が正しいことが証明された今、ニュートン力学における変数tは意味がなくなってしまうことなどです。もっとも現在の人類の科学技術レベル、ロケットを飛ばすのが精一杯のレベルではニュートン力学でも十分通用します。結論的には物理学には時間という概念は存在しないということです。一般的に思われている時間は誰にでも同じ速さで流れていくという感覚はニュートンの時代に信じられてきたものを我々が所与のものとして思い込まされているだけだと筆者は断言します。特に目からウロコだったのが時間の経過と関係があると思えるエントロピーに関する説明です。これについて詳しく書きたいのですがそれだけでかなりの文字数となりますので我慢します。
第二部「時間のない世界」では、筆者のループ量子重力理論研究者としての色彩が強くできます。ニュートン力学や相対性理論、超ひも理論のように時空が所与ではなく、あるのはループだけであり、重力を生み出すループ同士の相互作用によって時空があるように思えるという。
第三部「時間の源へ」では、時間についての筆者の推論が展開しますが、筆者も難しく感じる場合は飛ばしてくださいという第9章、10章は私にはよく分かりませんでした。そして第11章から13章にかけて今までの物理学の結論に反して私たちがなぜ時間というものを感じるかについて述べられます。詩・文学・哲学を交えながら筆者の考えを推し進めていきます。
本書には数式が一つしか出てきません。したがって私のような中途半端な知識しかない者にとって勿論分からない部分は多々あったとしても全体としてはとても知的興奮を覚える内容です。しかも前述のように詩・文学・哲学を交えた美しい文章、歴史や過去の偉大な科学者に対するリスペクトが感じられる文章、前向きで自分の人生を精一杯全うしようとする筆者の姿勢など単純に科学エッセイとして分類するのが難しいほどの内容です。年初から当たりでした。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:NHK出版
- ページ数:240
- ISBN:9784140817902
- 発売日:2019年08月29日
- 価格:2200円
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