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ぽんきち
レビュアー:
僧侶、神、そして伝説。
素人が学ぶ能、今回は「三輪」を。

何だか不思議な演目です。
仏教と神道、それに伝説が絡み、最後は天岩戸の神楽の話まで出てきます。

大和国、三輪山近くに庵を結ぶ、玄賓(げんぴん)というお坊さん(実在の人物だそうです)がいました。ここを毎日訪れる女がいます。女は仏前に樒と水を供えます。
ある寒い秋の夜、女は玄賓に衣を請います。玄賓は、快くこれを与え、日々訪ねてきてくれるが、どこに住んでいるのかと聞きます。女は三輪山近くの杉の木立の門構えの家だと答え、消えてしまいます。

玄賓が三輪の里を訪ねてみると、2本の杉の木のところに、自分が与えた衣が掛かっています。衣には金の文字で歌が記されていました。
三つの輪は、清く浄きぞ唐衣、くると思ふな、取ると思はじ。
(三輪(施す者・受ける者・施物)は清浄で汚れないので、あなたも私に施したとは思いなさるな、私も受けたとは思いませんから)
そこに女=三輪明神が現れます。三輪の神様は本来は男神なのですが、女の姿をしています。

玄賓はこれをありがたがりますが、明神も玄賓に罪障を晴らしてくれるよう頼みます。神様がなぜ仏道に救いを求めるのか、ちょっとわかりにくいですが、これは衆生を救う方便として、わざわざ人に身をやつして人々にこうした姿をみせてやっている、ということのようです。うーん、わかったような、わからないような(^^;)。
続いて三輪明神は三輪山の伝説を語り聞かせます。娘のところに夜毎に忍んで来る男がいる。朝になるとどこへともなく消えてしまう。いったい何者かと、男の衣に糸を縫い付けてみたら、糸は長く三輪山まで続いていたというものです。男は三輪山の神だったわけです(cf.:三輪明神HP)。
昔話にも類話があり、男の正体が蛇であったというものもあります。この場合、金気で蛇は死んでしまうのですが。
また、『妹背山女庭訓』のお三輪のエピソードのモデルになっているのもこの話です。苧環を辿って行った先に、恋しい人がいるというわけですね。

閑話休題。
明神はさらに、天岩戸の話を始めます。岩戸に隠れてしまった天照大神がおもしろおかしい音楽に魅かれて扉を開けたというものですが、このときの音楽が神楽の始まりだというのですね。明神は、伊勢の天照大神と三輪明神は、実は同体で異名の神格なのだと言います。
この部分は、音楽も神楽のようににぎやかで、祝言性の高い部分というところでしょうか。

何だか盛沢山なお話です。
能には、「小書(こがき)」と呼ばれる、特殊演出のようなものがあるのですが、この作品には多くの小書があるそうです。なるほど、どの部分に重点を置くか、どのお話を膨らませるかで、いろいろ工夫のしようがありそうな感じもします。
神の神秘や奇跡を感じさせるものだったのでしょうかね。
寒い季節によく演じられる作品だそうです。


<対訳でたのしむシリーズ>
『鉄輪』
『砧』
『土蜘蛛』
『隅田川』
『通小町』
『海士(海人)』
『屋島(八島)』
『敦盛』
『羽衣』
『井筒』
『安宅』
『船弁慶』
『紅葉狩』
『班女』
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1828 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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