あんまり降らないので、各地で冬祭りが縮小されているぐらい、雪が少ない。
どうして、雪が少ないと祭りが縮小されるのかというと、それはもうどこもかしこも冬のお祭りというと雪像作りや雪の滑り台が定番だからだ。
どんなに頑張ったところで、札幌の雪祭りに比べると、児童公園ぐらいの規模にしかならないのだし、あちこちの雪祭り会場を渡り歩いてきた観光客は、結構冷ややかな目でみているのではないか……と思うのだけれど、職場や学校や様々な有志で、一つの雪像を作り上げるという行為そのものが、地元の人にとってはお祭りなんだなあ。きっと。
雪像作りへの熱い想いを語る人の話を聞きながら、北国に移り住んでからもう結構たつというのに、未だよそ者感を味わう自分に思わず苦笑する。
そんな私が、帯に
Uターンアラサー女子の“第二の青春”の文字が躍るこの本を読み始めたのは、久々にどかっと雪が降って、雪かきに追われた日のことだった。
この本のことはTwitterで知った。
・一人出版社である里山社さんが出した本がSNSを通じてじわじわと広まって、あちこちで話題になっている
・Uターンして富山に暮らしているライターの本で、装丁がとても洒落ていて、読むと無性に富山に行きたくなる
そんな話題を目にしていたので、このテの本はきっと、本が好き!仲間にもすごく好きな人がいるはずだと思ったし、なによりも田舎暮らしをする私自身が興味をもったので、少し前に出た本ではあるけれど……と、ダメ元で掲示板「最近出た本、これから出る本 ここに注目!話題の本!!」に紹介したところ、本が好き!編集部が献本提供の交渉をしてくれた。
だが、私の事前リサーチはとても中途半端で、この本の著者藤井聡子さんが、地元富山で「ピストン藤井」の名前で活動されている方だとか、アラサーだとか、サブカル系の話題が多いとかいうことは、本を読み始めてから知ったのだった。
せめてもう一廻り若かったら、ついて行けたかもしれないけれど、大学を出てからも東京で迷走を続ける藤井さんのあれこれを読みながら、私はついつい彼女のお母さんの味方になって、「いい加減もう地に足着けなきゃ!」と説教したい気分に駆られてしまうし、サブカル系の話題はさっぱりわからないし……と、とりわけ導入部で置いてけぼり感を味わってしまった。
だから藤井さんが泣く泣く富山の実家に帰り、お母さんの経営する薬局で働きながら、自分自身のあり方を模索する段になると、ご本人の憂鬱ぶりをさておいて、思わずホッとしてしまったりも。
自ら進んで田舎暮らしを始めた私と、不本意ながら“都落ち”した藤井さんのそれとは、そもそも前提が大きく異なっているのは当然だったが、そんな私にもうんうんとうなずく場面はいくつもある。
たとえば、藤井さんは富山に帰った当初、二ヶ月おきぐらいに東京に上京して息抜きをしていたという話。
私も北国に移住した当初、なんやかやと理由をつけては上京し、東京にいたときは行かなかったようなコンサートに行ったり、研修に行ったり、友だちとご飯を食べに行ったりしたものだった。
それがだんだん地元に馴染むにつれて、足を向ける回数が減って、東京が遠のいていく。
ああ、その感覚はすごくよくわかる。
再開発に限らず、そこが田舎の良さなのにどうして、そんなところまで都会のマネをする必要があるのか!と疑問に思うことも多い。
つい口に出して、どうして田舎では都会にあるような便利さを求めてはいけないのか?と生粋の道産子さんたちに反論されてしまうこともあるけれど……。
故郷の富山に戻ったもののなかなか地元に馴染めない自分、馴染みたいとも思っていない自分への焦りや憤りから始まったエッセイはやがて、あの町角で、この商店街で、あの道ばたのドライブインで……と、あちこちで自分らしく生きる道を見つけて、あれやこれやに取り組んでいる人たちと知り合うことで、前向きで明るいものへと変わっていく。
なるほど、ローカルネタを集めて歩くことも、ものを書くということもおそらく藤井さんにとって、「どこにでもいる誰か」ではなく、「私は私だ」と自分自身を確かめる作業でもあるんだろうな、と思いはじめてからは、俄然おもしろくなった。
そうこの本は、富山の話でも、サブカルの話でもあるけれど、それだけではなく、ちょっと尖ってはいるけれど一人の若者の自分探しの旅物語でもある。
どこにでもいそうな誰かではなく、より自分らしい自分であるために、文字通り身体を張って頑張る一人の女性の物語だった。



本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
- この書評の得票合計:
- 44票
読んで楽しい: | 12票 | |
---|---|---|
参考になる: | 30票 | |
共感した: | 2票 |
この書評へのコメント
- 三太郎2020-02-04 18:06
地方の人が東京に行きたい!という話はよく聞くのですが、僕にはその気持ちが良く分からないのです。
僕自身は、仙台→東京(世田谷)→横浜→滋賀県草津市、と移り住んで来ましたが、仕事の都合を除けば、東京に住んで特によかった記憶もないですし。
東京にいた頃はクラシックの演奏会によく行きました。今は行けませんが特にそれが不満という訳でもなく、余暇には近所のブックオフで買った古本を読みふけっています。
先日、NHKの番組で秋田の人が「仙台はキラキラしている」といっていましたが、思い込みじゃないかなあ。雪が降らない分住み易いのは確かでしょうが。
日本中で、都会は(東京は)キラキラしている!という刷り込み(思い込み?)がどこかの時点で出来上がったのでしょうね。もちろん僕は東京が嫌いではないですが。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - 四次元の王者2020-02-05 14:50
>かもめ通信さん
どんよりと雲の広がる……はせいぜい11月から2月くらい。
3月終わりくらいに突然、乾いた南風がやってきて(フェーン現象)、水面がきらきら光り出します。
これがホタルイカで、魚津~滑川~富山市東部海岸は別世界になります。
蜃気楼の出現もここから数ヶ月の間。
そこからは青空の時期なのです。
この辺り触れて欲しかったけど、そもそも原体験なさってないんでしょうね。
北方との繋がりは、銀行はスタートではなく結果。
東北に支店は無いけど、北前船の影響で過去、北海道に20店舗以上の支店があり、彼の地ではあの北海道拓殖銀行より古い銀行なのでした。
あと銀行員になって気づいたのですが、黒四ダムの建設の際に新潟や東北地方から出稼ぎに来て、そのまま住み着いた人たちが、地場のコアな建設会社となった事例がけっこうあるのですが、地域社会の認知度は低いですね。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
- 出版社:里山社
- ページ数:224
- ISBN:9784907497095
- 発売日:2019年10月16日
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。
- ・文学・小説 > エッセー・随筆
- ・政治・経済・社会・ビジネス > 地域・都市