efさん
レビュアー:
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なんとも不思議な幻想譚なのだ
これ、翻訳した岸本佐知子さん好きそうな本だなぁ~と思いながら読みました。
非常に変わった雰囲気を持つ、独特の文体の短編集なんですよね。
話は次々と移ろっていきますし、作品によっては注意して読んでいないと肝心なところを読みそこなったり(話者がさりげなく変わっていたりして、私も「あれ?」となって前のページに戻ったりしたところもありました)。
どんな作品なのかというと……。
〇 スパイダーヘッドからの逃走
ここはとある特殊な刑務所。
ここでは人間の感情や能力を操ることができる薬を人体実験しています。
服役囚に薬を投与し、どういう効果が現れるか実験してるんですね~。
〇 センプリカ・ガール日記
作中にSGという略語が何の説明もなしに登場します。
なんだこれは?
どうも金持ちじゃないと手に入れることができないもので、庭に吊るすもの?
SGって、タイトルになっている『センプリカ・ガール』の略?
主人公一家は中流家庭(ちょっと経済的には苦しい)なのですが、宝くじに当たったことから、娘の誕生日を祝ってやろうと庭を整備し、憧れだった三連のSGを庭に吊るすのです。
なんと幸せなことか!
でも、娘の一人はSGが可哀そうだと思っているようなのです。
父親はそんなことはないんだと説明してやるんですが……。
ある日、庭に吊るしてあったSGが消えてしまいます。
盗まれたのか?
警察に通報したところ、SG解放を旗印にしている団体の仕業かもしれないということです。
そこへ造園を頼んだ業者がやってきます。
SGがいなくなっちゃうと巨額の賠償金を払わなければならない契約になっているというのです。
そんな馬鹿な!
収録作中、私のイチオシの作品です。
〇 わが騎士道、轟沈せり
中世のコスチュームで演劇をやっているテーマパークのような所で従業員のマーサが強姦されてしまいます。
犯人はテーマパークの経営者。
放心して横たわっているマーサを見たテッドは翌日経営者に呼び出されます。
経営者は、あれは合意の上のアヴァンチュールだったのさと言い、一緒にいたマーサもこれを肯定します。
マーサには千ドル渡したし、昇進もしたと言います。
君も昇進だ!
こいつ、口封じをしようというのか……。
でも、昇進は有難いことです。
これで俺の収入に頼っている家族にも良い思いをさせてやれる。
こんな閉鎖的な職場では強姦されたなどという噂は一気に広まることもあり、マーサも「ありがとうね。あんた命の恩人よ。」と言います。
甘んじてこの取引を受け入れたテッドなのですが、アトラクションを演じる際に飲まされたアドリブ力を向上させる薬なるものが効いてくると……。
黙っちゃいられない!
正義を完遂するんだ!
テッドは観客たちの前で経営者がマーサを強姦したと告発してしまうのです。
〇 十二月の十日
妄想たくましくしているいじめられっこの少年は極寒の中、一人で妄想冒険の旅に出ます。
ところが、凍った湖に転落してしまうのです。
これを偶然見ていたひとりの老人。
彼は老いのため身体が思うように動かなくなり、下の世話まで頼まなければならなくなっていることに絶望し、今しも自殺しようと極寒の森の中に出てきたところでした。
なんとういことだ!
早く助けなければ凍死してしまいます。
自分の衣服を脱ぎ、少年に着せてやる老人。
これで良いんだ……。
しみじみとした余韻が漂う表題作です。
収録作は、読みにくいと感じる方も多いんじゃないかと思います。
また、結構露骨な表現もあるので、そういうのはちょっと……という方もいるかもしれません。
でも大変ユーモラスですし、岸本さんの翻訳がまた軽やかで笑っちゃいます。
ユーモアの中にも心を締め付けてくるような感情が漂います。
作者は、あの『短くて恐ろしいフィルの時代』を書いた作家さんだったんですね。
あの作品は寓話的でしたが、本作に収められている作品はもっとストレートです。
好き嫌いは分かれそうですが、私は結構気に入りましたよ。
読了時間メーター
□□□ 普通(1~2日あれば読める)
非常に変わった雰囲気を持つ、独特の文体の短編集なんですよね。
話は次々と移ろっていきますし、作品によっては注意して読んでいないと肝心なところを読みそこなったり(話者がさりげなく変わっていたりして、私も「あれ?」となって前のページに戻ったりしたところもありました)。
どんな作品なのかというと……。
〇 スパイダーヘッドからの逃走
ここはとある特殊な刑務所。
ここでは人間の感情や能力を操ることができる薬を人体実験しています。
服役囚に薬を投与し、どういう効果が現れるか実験してるんですね~。
〇 センプリカ・ガール日記
作中にSGという略語が何の説明もなしに登場します。
なんだこれは?
どうも金持ちじゃないと手に入れることができないもので、庭に吊るすもの?
SGって、タイトルになっている『センプリカ・ガール』の略?
主人公一家は中流家庭(ちょっと経済的には苦しい)なのですが、宝くじに当たったことから、娘の誕生日を祝ってやろうと庭を整備し、憧れだった三連のSGを庭に吊るすのです。
なんと幸せなことか!
でも、娘の一人はSGが可哀そうだと思っているようなのです。
父親はそんなことはないんだと説明してやるんですが……。
ある日、庭に吊るしてあったSGが消えてしまいます。
盗まれたのか?
警察に通報したところ、SG解放を旗印にしている団体の仕業かもしれないということです。
そこへ造園を頼んだ業者がやってきます。
SGがいなくなっちゃうと巨額の賠償金を払わなければならない契約になっているというのです。
そんな馬鹿な!
収録作中、私のイチオシの作品です。
〇 わが騎士道、轟沈せり
中世のコスチュームで演劇をやっているテーマパークのような所で従業員のマーサが強姦されてしまいます。
犯人はテーマパークの経営者。
放心して横たわっているマーサを見たテッドは翌日経営者に呼び出されます。
経営者は、あれは合意の上のアヴァンチュールだったのさと言い、一緒にいたマーサもこれを肯定します。
マーサには千ドル渡したし、昇進もしたと言います。
君も昇進だ!
こいつ、口封じをしようというのか……。
でも、昇進は有難いことです。
これで俺の収入に頼っている家族にも良い思いをさせてやれる。
こんな閉鎖的な職場では強姦されたなどという噂は一気に広まることもあり、マーサも「ありがとうね。あんた命の恩人よ。」と言います。
甘んじてこの取引を受け入れたテッドなのですが、アトラクションを演じる際に飲まされたアドリブ力を向上させる薬なるものが効いてくると……。
黙っちゃいられない!
正義を完遂するんだ!
テッドは観客たちの前で経営者がマーサを強姦したと告発してしまうのです。
〇 十二月の十日
妄想たくましくしているいじめられっこの少年は極寒の中、一人で妄想冒険の旅に出ます。
ところが、凍った湖に転落してしまうのです。
これを偶然見ていたひとりの老人。
彼は老いのため身体が思うように動かなくなり、下の世話まで頼まなければならなくなっていることに絶望し、今しも自殺しようと極寒の森の中に出てきたところでした。
なんとういことだ!
早く助けなければ凍死してしまいます。
自分の衣服を脱ぎ、少年に着せてやる老人。
これで良いんだ……。
しみじみとした余韻が漂う表題作です。
収録作は、読みにくいと感じる方も多いんじゃないかと思います。
また、結構露骨な表現もあるので、そういうのはちょっと……という方もいるかもしれません。
でも大変ユーモラスですし、岸本さんの翻訳がまた軽やかで笑っちゃいます。
ユーモアの中にも心を締め付けてくるような感情が漂います。
作者は、あの『短くて恐ろしいフィルの時代』を書いた作家さんだったんですね。
あの作品は寓話的でしたが、本作に収められている作品はもっとストレートです。
好き嫌いは分かれそうですが、私は結構気に入りましたよ。
読了時間メーター
□□□ 普通(1~2日あれば読める)
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幻想文学、SF、ミステリ、アート系などの怪しいモノ大好きです。ご紹介レビューが基本ですが、私のレビューで読んでみようかなと思って頂けたらうれしいです。世界中にはまだ読んでいない沢山の良い本がある!
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- 出版社:河出書房新社
- ページ数:296
- ISBN:9784309207865
- 発売日:2019年12月11日
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