darklyさん
レビュアー:
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どこかで読んだことがあるような設定が多く決してアイデアで勝負の作品ではない。しかしリアルさとバランスがとても良くこれからの伸びしろが大きい作品のような気がする。
ケコン島で採掘される翡翠の力は特別だ。翡翠を身に着けその力を制御できれば人間の能力を超えた感覚、フィジカル能力、超能力を身に着けることができる。しかしすべての人が翡翠の力を制御できるわけではない。人種や体質によって受け付けない者もいるし、厳しい訓練も必要だ。翡翠の制御できない者が翡翠を身に着ければ命を落とすことになる。
ケコン島はグリーンボーンと呼ばれる翡翠を付けた戦士たちの二つの集団に実質支配されている。一つはコール家の「無峰会」そしてアイダをリーダーとする「山岳会」。この二つの組織は勢力争いの中で均衡を保ってきたが、山岳会による不穏な動きを察知した無峰会が反応する。やがて大きな事件が起こり、それを山岳会の仕業だとして無峰会は全面戦争に打って出る。
主人公は無峰会のコール家の人々。思慮深く穏健派である「柱」のラン、ランの弟で戦闘能力が高く武闘派である「角」のヒロ、ヒロの妹で戦略家で智謀に長け、後に「日和見」となるシェイ、コール兄弟の従弟でありグリーンボーン養成学校の生徒であるアンデン、ケコンの炎と呼ばれた英雄でランの祖父であり先代の「柱」であるセン、その盟友で当初「日和見」であったドルらによる家族、仲間らの葛藤も一つの見所となる。
本作品は幻想文学大賞を受賞したそうですが、島の支配を巡る人間社会ではありがちな抗争に翡翠が人体に強い影響を及ぼすという設定を味付けた話であり、幻想というよりもバイオレンスあるいはノワールといったものに近いと思われます。したがって奇想天外で想像や理解がしにくい状況がほとんどなくとても読み易い物語です。
独特の用語もイメージしやすいです。組織については「柱」=組長、「角」=若頭、「拳」=若頭補佐、「指」=構成員と考えればほぼ日本の暴力団と同じです。組織をサポートし、時には利用する政治家もいれば、スポンサーあるいは「みかじめ料」を納める立場である「灯籠もち」など。解説によると作者は日本のヤクザのノンフィクションも書いたことがあるようです。
本書は二段組で600ページ近い分量がありながら、全く飽きることもなくどっぷり世界に入り込むことができます。それは物語のリアルさにあるような気がします。島を巡る単なる勢力争いという構図ではなく、虎視眈々とこの島や翡翠を狙う他国にも対峙しなければならないという地政学的なリアルさ。正義の主人公たちと悪のライバルという単純な設定ではなく、前述の地政学的リスクを踏まえたお互いの言い分にそれぞれ理があるというリアルさ。シャインという薬を使えば翡翠の力を制御でき、そもそも翡翠に耐性がない者でもグリーンボーンのようにできることがケコン島あるいはその外部との軍事バランスを変化させてしまう危険性を孕んでいるという設定のリアルさ。先ほどの組織をヤクザに例えるのと同様にシャイン=覚せい剤と見ることができ、これをうまくコントロールできれば莫大な収益が得られる反面、自らの組織を破壊してしまうという危険性もある諸刃の剣と言える存在です。ちなみに山岳会はシャインビジネスを利用しようとし、無峰会ではシャインは御法度。無峰会は昔ながらの任侠ヤクザのようだとも言えます。
悲壮感漂う無峰会による最後の勝負の場面を読んでいるときの興奮は、映画「マトリックス」の終盤、救世主として覚醒しマトリックスのプログラムを超越したネオが最早スローモーションにしか見えない宿敵エージェントスミスを倒す場面を観ているときに感じたものと似ています。
とても面白かった本書ですが、結末からしてもこれは物語の始まりであることは間違いなく、解説でもグリーンボーンサーガとの記載もあることからシリーズ化していくのでしょう。次回作が楽しみです。そしてこの作品はとても映画向きのような気がします。うまく作れば人気シリーズになりそうです。
ケコン島はグリーンボーンと呼ばれる翡翠を付けた戦士たちの二つの集団に実質支配されている。一つはコール家の「無峰会」そしてアイダをリーダーとする「山岳会」。この二つの組織は勢力争いの中で均衡を保ってきたが、山岳会による不穏な動きを察知した無峰会が反応する。やがて大きな事件が起こり、それを山岳会の仕業だとして無峰会は全面戦争に打って出る。
主人公は無峰会のコール家の人々。思慮深く穏健派である「柱」のラン、ランの弟で戦闘能力が高く武闘派である「角」のヒロ、ヒロの妹で戦略家で智謀に長け、後に「日和見」となるシェイ、コール兄弟の従弟でありグリーンボーン養成学校の生徒であるアンデン、ケコンの炎と呼ばれた英雄でランの祖父であり先代の「柱」であるセン、その盟友で当初「日和見」であったドルらによる家族、仲間らの葛藤も一つの見所となる。
本作品は幻想文学大賞を受賞したそうですが、島の支配を巡る人間社会ではありがちな抗争に翡翠が人体に強い影響を及ぼすという設定を味付けた話であり、幻想というよりもバイオレンスあるいはノワールといったものに近いと思われます。したがって奇想天外で想像や理解がしにくい状況がほとんどなくとても読み易い物語です。
独特の用語もイメージしやすいです。組織については「柱」=組長、「角」=若頭、「拳」=若頭補佐、「指」=構成員と考えればほぼ日本の暴力団と同じです。組織をサポートし、時には利用する政治家もいれば、スポンサーあるいは「みかじめ料」を納める立場である「灯籠もち」など。解説によると作者は日本のヤクザのノンフィクションも書いたことがあるようです。
本書は二段組で600ページ近い分量がありながら、全く飽きることもなくどっぷり世界に入り込むことができます。それは物語のリアルさにあるような気がします。島を巡る単なる勢力争いという構図ではなく、虎視眈々とこの島や翡翠を狙う他国にも対峙しなければならないという地政学的なリアルさ。正義の主人公たちと悪のライバルという単純な設定ではなく、前述の地政学的リスクを踏まえたお互いの言い分にそれぞれ理があるというリアルさ。シャインという薬を使えば翡翠の力を制御でき、そもそも翡翠に耐性がない者でもグリーンボーンのようにできることがケコン島あるいはその外部との軍事バランスを変化させてしまう危険性を孕んでいるという設定のリアルさ。先ほどの組織をヤクザに例えるのと同様にシャイン=覚せい剤と見ることができ、これをうまくコントロールできれば莫大な収益が得られる反面、自らの組織を破壊してしまうという危険性もある諸刃の剣と言える存在です。ちなみに山岳会はシャインビジネスを利用しようとし、無峰会ではシャインは御法度。無峰会は昔ながらの任侠ヤクザのようだとも言えます。
悲壮感漂う無峰会による最後の勝負の場面を読んでいるときの興奮は、映画「マトリックス」の終盤、救世主として覚醒しマトリックスのプログラムを超越したネオが最早スローモーションにしか見えない宿敵エージェントスミスを倒す場面を観ているときに感じたものと似ています。
とても面白かった本書ですが、結末からしてもこれは物語の始まりであることは間違いなく、解説でもグリーンボーンサーガとの記載もあることからシリーズ化していくのでしょう。次回作が楽しみです。そしてこの作品はとても映画向きのような気がします。うまく作れば人気シリーズになりそうです。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:早川書房
- ページ数:608
- ISBN:9784153350458
- 発売日:2019年10月17日
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