darklyさん
レビュアー:
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私の住む街を舞台にした心温まる物語。ギスギスした人間関係に疲れている方にお薦めします。
「人を殺してしまった・・・」森を彷徨う雛歩は体力の限界を迎え意識が遠のいていく中で綺麗な女性から問いかけられた。「あなたは帰る場所がありますか」と。雛歩が気付くとそこは「さぎのや」というお遍路宿であった。助けてくれた女将さんを始めとしてその家族やそこで働く人々の献身的な介抱により雛歩は元気を取り戻す。
所は四国の愛媛県松山市、道後温泉に「さぎのや」はある。普通の宿と違うのは一切旅人から料金を取らない上に居たいだけ留まることができるということ。実は女将さんとその家族以外に働いている人は「さぎのや」にお遍路として辿り着き留まっている人たちだ。
雛歩は「さぎのや」の人々や「さぎのや」を取り巻く人々と触れ合い、皆の優しさに心を癒され、悲しみに共感し、お遍路や道後の文化を学ぶことで、ここに留まり自分が助けられたように人を助けたいと切望するようになる。そして自分がなぜ逃げていたのかも正直に打ち明ける。
私の家から東に真っすぐ行くと道後温泉本館に突き当たります。そこを左に回り込むと坂にぶつかります。その坂の名は白鷺坂。神の使いである白鷺が羽を痛めて飛べなくなり死を覚悟したが道後温泉を発見しそこで傷を癒して神の元に帰ったという白鷺伝説にちなんで名付けられました。
この物語は四国八十八ヶ所を巡るお遍路さんを接待する「お接待文化」が今も息づく四国の愛媛松山道後温泉を舞台に謂わば天童版理想郷を描いたものです。「お接待文化」とは利他の精神に他なりません。「さぎのや」はお遍路さんから料金を取らず、「さぎのや」に恩のある地元の人々あるいは人生に絶望する中「さぎのや」に助けられて立ち直ったお遍路さんからの寄付などで成り立っています。
今100の富があるとして、利己的な10人がそれを取り合ったとします。逆に利他的な10人がお互いに与えあったとします。皆が持っている富の合計はどちらも100です。しかしそれぞれ10人が持つ心の豊かさは比べ物になりません。
虐待、いじめ、リストラ、色々な理由で家庭あるいは社会に居場所がなくなる人々がいます。災害、子供に自殺された親、この世に生きる人々の苦しみは尽きません。今も昔も四国八十八ヶ所を巡るお遍路さんは色々な人生の問題を抱えていることが多い。人生にも旅にも行き詰った時、「あなたは帰る場所がありますか」と声をかけられて無条件に暖かく迎えてくれる人々がいる世界、そして助けられた人々が立ち直り他の苦しんでいる人々を助ける世界、これが天童さんが考える理想郷なのだろうと思います。
今外国人の巡礼者も増えているようです。「さぎのや」にも外国人もいます。動機は必ずしも何かに行き詰ってということではなく旅行のイベント的なものなのでしょうが、そこで感じるお接待文化には衝撃を受けると思います。これだけでなく私は日本は世界に良い影響を与えるほぼ唯一の国ではないかと思っています。サッカー試合の後のゴミ拾い、ラグビーワールドカップでの外国を驚かせた数々の日本の行動など数えきれないほどあると思います。訪日外国人の数が増えることによる経済効果よりも日本の文化の良いところを体験していただき、それを国に持ち帰ってもらうことのほうが価値があると思います。
この物語を読んでいて頭に浮かんだ音楽がジョンレノンの「イマジン」。まさに「イマジン」をお接待文化を元に日本版にしたものではないかと思います。寡作の作家である天童さんの小説は表面上の読みやすさとは裏腹な精神的な重さを感じるものが多いですが、この物語は非常にストレートで心温まるものであり、またあまり難しいテーマを扱っていません。それは多分大人だけでなく小中学校生にも読んでもらいたいということなのではないかと思います。
所は四国の愛媛県松山市、道後温泉に「さぎのや」はある。普通の宿と違うのは一切旅人から料金を取らない上に居たいだけ留まることができるということ。実は女将さんとその家族以外に働いている人は「さぎのや」にお遍路として辿り着き留まっている人たちだ。
雛歩は「さぎのや」の人々や「さぎのや」を取り巻く人々と触れ合い、皆の優しさに心を癒され、悲しみに共感し、お遍路や道後の文化を学ぶことで、ここに留まり自分が助けられたように人を助けたいと切望するようになる。そして自分がなぜ逃げていたのかも正直に打ち明ける。
私の家から東に真っすぐ行くと道後温泉本館に突き当たります。そこを左に回り込むと坂にぶつかります。その坂の名は白鷺坂。神の使いである白鷺が羽を痛めて飛べなくなり死を覚悟したが道後温泉を発見しそこで傷を癒して神の元に帰ったという白鷺伝説にちなんで名付けられました。
この物語は四国八十八ヶ所を巡るお遍路さんを接待する「お接待文化」が今も息づく四国の愛媛松山道後温泉を舞台に謂わば天童版理想郷を描いたものです。「お接待文化」とは利他の精神に他なりません。「さぎのや」はお遍路さんから料金を取らず、「さぎのや」に恩のある地元の人々あるいは人生に絶望する中「さぎのや」に助けられて立ち直ったお遍路さんからの寄付などで成り立っています。
今100の富があるとして、利己的な10人がそれを取り合ったとします。逆に利他的な10人がお互いに与えあったとします。皆が持っている富の合計はどちらも100です。しかしそれぞれ10人が持つ心の豊かさは比べ物になりません。
虐待、いじめ、リストラ、色々な理由で家庭あるいは社会に居場所がなくなる人々がいます。災害、子供に自殺された親、この世に生きる人々の苦しみは尽きません。今も昔も四国八十八ヶ所を巡るお遍路さんは色々な人生の問題を抱えていることが多い。人生にも旅にも行き詰った時、「あなたは帰る場所がありますか」と声をかけられて無条件に暖かく迎えてくれる人々がいる世界、そして助けられた人々が立ち直り他の苦しんでいる人々を助ける世界、これが天童さんが考える理想郷なのだろうと思います。
今外国人の巡礼者も増えているようです。「さぎのや」にも外国人もいます。動機は必ずしも何かに行き詰ってということではなく旅行のイベント的なものなのでしょうが、そこで感じるお接待文化には衝撃を受けると思います。これだけでなく私は日本は世界に良い影響を与えるほぼ唯一の国ではないかと思っています。サッカー試合の後のゴミ拾い、ラグビーワールドカップでの外国を驚かせた数々の日本の行動など数えきれないほどあると思います。訪日外国人の数が増えることによる経済効果よりも日本の文化の良いところを体験していただき、それを国に持ち帰ってもらうことのほうが価値があると思います。
この物語を読んでいて頭に浮かんだ音楽がジョンレノンの「イマジン」。まさに「イマジン」をお接待文化を元に日本版にしたものではないかと思います。寡作の作家である天童さんの小説は表面上の読みやすさとは裏腹な精神的な重さを感じるものが多いですが、この物語は非常にストレートで心温まるものであり、またあまり難しいテーマを扱っていません。それは多分大人だけでなく小中学校生にも読んでもらいたいということなのではないかと思います。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:文藝春秋
- ページ数:367
- ISBN:9784163911045
- 発売日:2019年10月03日
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