かもめ通信さん
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「もううんざりだ。今日で終わりにしよう」
先日、本が好き!の献本にみすず書房から出たばかりのカロリン・エムケの新刊 『なぜならそれは言葉にできるから』が挙がっているのを知り、PCの画面をのぞき込みながら「すごい!すごい!」一人歓声をあげてしまった。
残念ながら抽選にはハズレてしまって戴くことは出来なかったが、そういえば、しばらく前に出たこの本も、読みはしたものの、なかなかまとめきれずに、レビューを書きあげていなかったと思い出して、本と書きかけの原稿を引っ張り出してみた。
カロリン・エムケは、1967年生まれのドイツのジャーナリスト。
『シュピーゲル』『ツァイト』の記者として、世界各地の紛争地を取材経験があり、2014年からはフリージャーナリストとして多方面で活躍している。
本書は2016年、メルケル首相が難民受け入れを表明し、ドイツ国内で激しい論議が巻き起こる中出版され、ドイツ図書流通連盟平和賞を受賞、刊行から一年あまりで発行部数が11万部を超え、何ヶ月もの間ドイツベストセラーリストに載り続けたという話題作だ。
日本語版が出版された2018年3月当時で、日本語を含め12カ国語に翻訳されてもいる。
エムケは本書の中で、2015年にドイツで起きた難民排斥事件や2014年にアメリカ・スタテンアイランドで発生したエリック・ガーナー窒息死事件など具体的な例をあげながら、差別について、憎しみについて考察し、政治的、宗教的、文化的な対立を超えた相互理解の可能性を示そう試みている。
民族の別、男女の別、白人と黒人、国民と難民という一義的な区別で「純粋」なものと「不純」なものをわけ、自分とは「違う」存在をつくりだして攻撃するという、世界中に蔓延する感情にまっすぐに向き合い、攻撃に加わる人々を全否定するのではなく、彼らに向かってまず自分自身の感情と向き合い「憎しみに抗って、ひたすら不純なものへの賛歌」が必要なのだと説く。
同時に人々の憎しみや不安を利用しようとする者たちがいることへの警告も忘れない。
世界のあちこちで起きていることはもちろん、自分の身近で起きているあれこれについても、それはおかしい、それは間違っていると思うことは多い。
私自身そう思った時点でできるだけ声を上げるよう心がけてもいるつもりだが、思いばかりが先走ってなかなか説得力を持つまとまった話ができない場面もまた多い。
この本はそんな私を励ましてくれる本でもあった。
<関連レビュー>
●タナハシ・コーツ 『世界と僕のあいだに』
残念ながら抽選にはハズレてしまって戴くことは出来なかったが、そういえば、しばらく前に出たこの本も、読みはしたものの、なかなかまとめきれずに、レビューを書きあげていなかったと思い出して、本と書きかけの原稿を引っ張り出してみた。
カロリン・エムケは、1967年生まれのドイツのジャーナリスト。
『シュピーゲル』『ツァイト』の記者として、世界各地の紛争地を取材経験があり、2014年からはフリージャーナリストとして多方面で活躍している。
本書は2016年、メルケル首相が難民受け入れを表明し、ドイツ国内で激しい論議が巻き起こる中出版され、ドイツ図書流通連盟平和賞を受賞、刊行から一年あまりで発行部数が11万部を超え、何ヶ月もの間ドイツベストセラーリストに載り続けたという話題作だ。
日本語版が出版された2018年3月当時で、日本語を含め12カ国語に翻訳されてもいる。
エムケは本書の中で、2015年にドイツで起きた難民排斥事件や2014年にアメリカ・スタテンアイランドで発生したエリック・ガーナー窒息死事件など具体的な例をあげながら、差別について、憎しみについて考察し、政治的、宗教的、文化的な対立を超えた相互理解の可能性を示そう試みている。
憎しみに立ち向かうただひとつの方法は、憎む者たちに欠けている姿勢をとることだ。つまり、正確に観察すること、差違を明確にし、自分を疑うのを決してやめないこと。こういった姿勢によって、憎しみは次第にひとつひとつの要素に解体されていく。そして一過性の感情をイデオロギー的前提とは分けて考えること、憎しみがそれぞれの歴史的、地域的、文化的文脈のなかでどのように生まれ、育っていくのかを観察することが可能になる。
民族の別、男女の別、白人と黒人、国民と難民という一義的な区別で「純粋」なものと「不純」なものをわけ、自分とは「違う」存在をつくりだして攻撃するという、世界中に蔓延する感情にまっすぐに向き合い、攻撃に加わる人々を全否定するのではなく、彼らに向かってまず自分自身の感情と向き合い「憎しみに抗って、ひたすら不純なものへの賛歌」が必要なのだと説く。
同時に人々の憎しみや不安を利用しようとする者たちがいることへの警告も忘れない。
憎しみと不安を煽ることで利益を得ようとする者たちのことも、忘れてはならない。不安を煽って利益を得る者は、その利益が高視聴率であれ、有権者の票であれ、派手なタイトルのベストセラーを出版することであれ、わかりやすい見出しで多くの人の注目を集めることであれ、皆、通りでのいわゆる「リンチ」からは距離を置きたいと思っている。だがそれを経済的に利用する術は心得ているのだ。
世界のあちこちで起きていることはもちろん、自分の身近で起きているあれこれについても、それはおかしい、それは間違っていると思うことは多い。
私自身そう思った時点でできるだけ声を上げるよう心がけてもいるつもりだが、思いばかりが先走ってなかなか説得力を持つまとまった話ができない場面もまた多い。
この本はそんな私を励ましてくれる本でもあった。
<関連レビュー>
●タナハシ・コーツ 『世界と僕のあいだに』
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
この書評へのコメント
- かもめ通信2019-12-11 06:39
変なの。三十分以上前に投稿して確かに一度反映されていたはずなのに、今見たら、下書き保存のままになっていた。
もう一度投稿ボタンをおしたけれど、今度は大丈夫かしら?(12/11 6:38)
https://twitter.com/honzuki_jp/status/1204506079796682752クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - たけぞう2019-12-11 21:56
>かもめ通信さん
・・・すみません、献本、わたしが当たっちゃいました。応募動機は、かもめ通信さんの注目本だからでして(汗汗
昨日から読み始めて、ちょうど三分の二ぐらいまで来ています。内容のすごさに、価値観がリセットされる衝撃を受けています。これだから読書は素晴らしいという思いをかみしめつつも、決して平易ではない本なので、気合いを入れて取り組んでいます。
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- 出版社:みすず書房
- ページ数:216
- ISBN:9784622086703
- 発売日:2018年03月16日
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